日本でも海外でも旅行に行けば、必ずといってと良いほど訪問先の美術館、博物館に向かいます。地域の皆さんが誇る歴史、美術品を間近に体感できるうえ、思いがけない刺激を受けることが多いからです。数千年の時間を感じさせない展示品から、「人間って生きているんだなあ」と実感する時間がとても好きです。貴重なものですから、ガラスなどでしっかり守られているのが当然と考えていました。
4歳の子が誤って甕を破損
ところが、イスラエルのある博物館ではガラスなどの保護をせずに、気軽に触れられる展示方法を貫いていることを知り、驚きました。いつか誰かが壊してしまうのではと心配になるでしょう。残念ながら、起こってしまいました。父親と一緒に館内を見学していた4歳の男の子が展示していた3500年前の甕(かめ)を誤って割ってしまったのです。
にもかかわらず、博物館は「故意で割ったわけでない」として今後もガラスなどで保護せずに展示し続ける考えを継続するそうです。歴史的に貴重な物をできるだけ身近に鑑賞してほしいという博物館の考えに沿ったものですが、人間の倫理観を信じ続ける勇気と覚悟に感動しました。個人の倫理観を尊重するとは、ここまで信じることなのか。正直、信じられませんでした。
その博物館とはイスラエル北部のハイファ大学内にあるヘクト博物館で、考古学的な発掘品を収集し、展示しています。同博物館は、考古学的発見物をさえぎるるものなく展示することに「特別な魅力」があると考え、破損した甕もガラスの保護なしで博物館の入り口付近に展示していました。割れた甕は、紀元前2200~1500年の青銅器時代のもので、保存状態が良く非常に貴重なものでした。
甕は発掘時に無傷の青銅器
メディアによると、4歳の男の子は甕の中身が気になって少し引っ張ってしまい、落下し割れたそうです。父親は息子さんから事情を聞き、警備員に割れた事実を伝えました。甕は聖書に登場するダヴィデ王やソロモン王の時代よりも古いとみられ、ワインやオリーブ油などを運ぶ器だったのでしょう。甕を目の前に見れば、聖書の時代の生活ぶりが浮かび、4歳の子じゃなくても甕の中に何かあるのではないかと思います。
博物館は故意に破損した場合は警察に通報し、厳重に対処しています。しかし、今回は4歳の子が故意ではなく誤って破損したので、対応は異なりました。
考古学的な損失は大きいはずです。発掘で発見された陶器は割れたりして完全な形を維持しているものがほとんどありません。今回は当時そのままの姿で発掘された甕でした。破損は修復で元の姿に戻るとはいえ、以前の甕の価値がそのまま取り戻せるわけではありません。博物館も残念だとコメントとしています。それでも、博物館は再び4歳の男の子ら家族を招待し、博物館の展示方法に変更がない意思を示しました。
博物館は可能な限り、そのまま展示
ヘクト博物館は取材した英国放送のBBCに対し「可能な限り、展示品は障壁やガラス壁なしで展示されている」と述べ、「今回のようなまれな出来事にもかかわらず」、今後もこの伝統を続けるつもりだと説明したそうです。
我が身に振り返ると、下を向くしかありません。小中学校の頃、「廊下を走るな」「手洗い、うがいをする」の張り紙が校内のあちこちにありました。廊下を走っちゃいけないことは承知です。でも走るのです。両腕にバケツを持って立たされたこともあります。博物館の「人を信じ切る」に敬服します。
◆ 写真は上海の博物館に展示されている青銅器
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