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公取委、独禁法・守護神の強面を捨て国民・消費者目線で摘発 グーグル、ホテル価格、トヨタの人気車販売

 公正取引委員会が躍動しています。不正な取引を監視する独占禁止法の守護神として目を光らせるのは当然ですが、視線がどんどん広がり、かつてとは違った眼力を感じます。最近、目立つのは大企業の優位的な立場を利用した「下請けいじめ」、ネット時代を支配する「GAFA」と呼ばれる米国の巨大情報企業への監視、さらに水面下でやり取りされているカルテルや商取引に対する相次ぐ摘発です。1980年代の公取委は独禁法の守護神として誇示するイメージもありましたが、そんな強面の鎧を捨て去って国民・消費者目線で不公平感を解消し、公取委との距離を縮めようという努力を感じます。

スマホの検索サービスに排除命令

 最近の事例なら、やはり米グーグル。スマートフォンのメーカーに対しグーグルの検索アプリだけを初期搭載するよう圧力をかけたとして独占禁止法違反(不公正な取引方法)による排除措置命令を出しました。グーグル、アップル、フェイスブック(社名はメタ)、アマゾン4社の頭文字を並べた「GAFA」を摘発するのは初めてでした。是正命令は実行しなければ巨額の罰金などが科されます。

 欧州連合(EC)はすでにグーグルに公平な競争を阻害したとして巨額の制裁金を課しています。改めて日本の公取委が際立つわけではありません。むしろ、遅すぎたかもしれません。ただ、GAFAは日常生活で欠かせない道具です。毎日どころか毎分操作するスマホのサービスに公取委が独禁法の観点からメスを入れることは、国民・消費者に公取委の存在を身近に実感させるチャンスです。

「やっぱりね」と思わず頷いてしまったのがホテルの価格カルテル。公取委は東京都のホテル15社が客室の稼働率や平均単価などの情報を定期的に交換していたとして再発防止を求める警告を出すそうです。「帝国ホテル」や「ホテルニューオータニ」などの高級ホテルを運営する15社の営業担当者らが毎月1回程度集まり、予約状況などを共有していたと判断しており、数十年前から続いてきたとみています。割安なネット予約が当たり前の今ならまだしも、長年の慣行として客室単価などを示し合わせて過度な安売りを未然に防いでいたとは・・・。

 カルテルとは複数の企業が価格などを話し合って宿泊料金などを決定する行為をいいます。独禁法では「不当な取引制限」として禁じています。帝国ホテルやホテルニューオータニなどはカルテルしなくても、十分に客室単価は高い気がしますが、外国人観光客が押し寄せるインバウンド・ブーム以前は客室稼働率が低く、料金の引き上げに苦労したのでしょう。気持ちはわかりますが、不法行為は遺憾です。

トヨタの販売系列に順守を要請

 最近で最も注目したのはトヨタ自動車「アルファード」など大ヒットしている新車販売をめぐる警告です。「アルファード」「ヴェルファイア」「ランドクルーザー」3車は高価格の大型車でありながら、高い人気を集めており、納車期間が長期化するほど。公取委は、過熱ともいえる人気に乗じてトヨタの直営販売会社トヨタモビリティ東京(東京・港)が2023年6月から24年11月までの間に「アルファード」など3車を販売するにあたって、自社サービスの購入などを条件に提示していたとみています。いわゆる抱き合わせ販売です。

 自社サービスは購入後のコーティングやメンテナンスサービスのほか、トヨタファイナンスとのローン契約や所有する車両の下取りなどで、抱き合わせ販売に応じない場合は販売を拒否した事例もあったそうです。高い人気を反映して中古車市場では新車価格を上回る事例も出ており、トヨタモビリティ東京は購入後、すぐに転売してしまう客を排除する狙いがあったのかもしれませんが、抱き合わせ販売をダメです。公取委はトヨタに対して対象の車種を販売する全国の販売店への独禁法順守の周知徹底を要請したほか、日本自動車販売協会連合会にも会員に対しての周知を徹底するよう求めています。

下請けいじめを徹底的に排除

 古谷一之委員長は2025年の年頭挨拶で、「公正取引委員会が担うべき役割は、『競争なくして成長なし』の基本的な考え方の下で、公正で自由な競争を確保することにより経済成長を促進するとともに、付加価値の適正な分配が行われる公正な取引環境を整備することを通じて「成長と分配の好循環の実現」を競争政策で支えることにあると考えます」と強調しています。

 「法の執行」「価格転嫁のための取引適正化」「競争政策の強化」「国際的な連携強化」の4点を柱として説明していますが、ここ数年は下請け企業に対する価格交渉には力を入れています。背景には物価上昇によって実質賃金が低下し、政府が大幅な賃上げを求めていることがあります。しかし、経団連などに参加する大企業などは大幅賃上げができますが、中堅・中小企業は利益率が低く、大企業と同様なレベルで賃上げすることはできません。

 その理由は発注者側の優位な立場を利用して下請けする中小企業に不当な値引きやキックバックなどを求めるビジネス慣行があるからです。公取委は中小企業庁とともに自動車や住宅、運輸など「下請けいじめ」が目立つ業種に対し、たびたび改善するよう命令を出しています。中小企業が従来に比べ賃上げ率を引き上げることができれば、それだけ多くの国民が賃金増の恩恵を受けることができます。

 かつて遠い存在だった公取委が多くの国民にとって身近な存在に感じられるはずです。ぜひ「公取委が頑張って」という声が広がることを期待しています。

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