経済産業省は4月4日、「人権デューデリジェンス」を公表しました。企業は販売、部品などの事業を通じて幅広い企業と関係していますが、下請けなど系列の序列や力関係による人権侵害、あるいは調達や販売などで関連する企業による人権侵害を防止するのが狙いです。経済のグローバル化により広大なサプライチェーンで構築された結果、先進国と途上国間の貿易を通じて人権侵害を見逃している事例も多く、世界から批判を浴びる恐れがある日本企業にも徹底する趣旨もあります。
日本は世界の潮流から遅れ
世界の潮流から眺めればちょっと遅気に失した感はありますが、それよりも経産省の足元が心配です。それは国土交通省OBによる上場企業への人事介入です。経産省が公表した人権デューデリジェンスは企業のサプライチェーンに焦点を当てていますから、直接触れるかどうか微妙ですが、企業を監督する立場の省庁による越権行為は見逃してはいけません。経産省は企業ばかりでなく、国交省など企業に強い影響力を持つ行政に対しても「人権デューデリジェンス」を行使するよう求めて欲しいです。
指針は22年に公表済み
「人権デューデリジェンス」はすでに2022年に指針に公表しており、今回は経験が少なく不慣れな企業も視野に入れてリスク評価と対応をしやすくするよう実務的な手順を示しています。経団連に加入する大手企業は専門家を抱えていますが、人権侵害など法務部門を持つ余裕がない中小・零細企業は経産省が公表した手引書を参考に判断し、対応策を考える欲しいという思いが込められています。
経産省の手引書は次のアドレスを参照ください。
責任あるサプライチェーン等における 人権尊重のための実務参照資料https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230404002/20230404002-1.pdf
西村康稔経産相は人権侵害を考える手引書について4日の閣議後の記者会見で「企業の予見可能性を高めながら、人権尊重の取り組みを進めたい」と説明しています。
「人権の負の影響に注意」と警鐘を鳴らす
経産省が2022年9月に公表した指針は以下のとおり、日本企業の対処について求めています。
我が国は、特にアジ ア諸国と共にサプライチェーンを整備し、各国と強い経済的結びつきを有する国家とし て、現地の状況を考慮しつつ、企業による人権尊重の取組の普及・促進に向けてリー ダーシップを発揮していくことが期待されている。同時に、日本で事業活動を行う企業は、国連指導原則の下、日本国内のみならず世界 各地における自社・グループ会社及びサプライチェーン等における人権に対する負の影 響に注意を払わなければならない。
https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003-a.pdf
全く異議はありません。ところが、残念ことに経産省と並ぶ重要官庁である国土交通省出身の元事務次官出身者が上場企業に対し監督官庁の威光を濫用します。羽田空港の格納庫などの施設運営を手掛ける空港施設の社長人事に介入したのです。
国交省OBが上場企業の権利侵害
国交省の元事務次官で東京メトロの本田勝会長は空港施設の乘田俊明社長らに対して山口勝弘副社長を社長に昇格させるよう「国交省の意向」として要求したとメディアが伝えました。山口副社長は国交省で東京航空局長を務め、空港権益には精通しています。山口副社長本人も社長就任するつもりだったようです。
しかし、空港施設は4月3日、山口副社長が同日付で辞任したと発表しました。「一身上の都合」と説明していますが、引き金は国交省出身者らの圧力が裏目に出たのは自明です。
数えきれないほどの許認可権を握る霞ヶ関の官僚たちの影響力は今も計り知れないのでしょう。今回の人事介入は氷山の一角だとしたら、経産省は企業に対して人権侵害を警報を鳴らすと同時に、経産省も含めて企業の権利侵害に注意を払うよう率先して欲しいです。
結局は中小・零細が泣き寝入りするだけか
このままでは、大企業と役所にビジネスと許認可権などを握られ、右往左往する中小・零細企業が相変わらず冷遇されるだけです。政府から賃上げの大幅引き上げを求められても、なす術がありません。結局は泣き寝入りするだけなのでしょうか。
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