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カルビー Eco*Ten6・8点 ESGの先進モデル・農工一体を再構築 自らの改革力が問われる

 カルビーをEco*Tenします。

 カルビーはポテトチップスなど成長を支えた主力商品の多くがじゃがいもを素材としています。日本のじゃがいもの15%を消費するほどです。早くから北海道などで農家と契約を結び、素材の生産と製品の生産を一体化する当時としては画期的でした。

「掘り出そう。自然の力。」を再び

 なにしろコーポレートメッセージは「掘り出そう、自然の力。」。この経営理念を体現した農工一体のモデルは、品質検査や生産工程など食品メーカーの生命線である企業経営の根幹となって、じゃがいもを軸にした少数精鋭のヒット商品をさらに強化、カルビーの成長力を生み出しました。

 しかし、壁にぶつかっています。カルビーは2023年2月に2030年に向けた成長戦略を発表し、「じゃがりこ」をけん引役に国内外での商品ブランドの再構築を着手。買収した英国の食品子会社の「ハーベスト・スナップス」も軸にしながら、少数精鋭型のブランド戦略の幅を広げる考えです。

少数精鋭のブランド戦略をどう食と健康などで補うか

 商品戦略に並ぶのが「アグリビジネス」と「食と健康」。アグリビジネスはすでに農工一体を実践しているものの、輸入原料の高騰を受けて、じゃがいもで蓄えた知見をもとに活用するじゃがいもやさつまいもの品種や品質を広げ、安定した調達体制を整える方向です。

 商品として「焼き芋」「干し芋」なども増やすそうですから、「ポテトチップス」「じゃがりこ」「かっぱえびせん」で形成されたスナック菓子、カルビーのブランドイメージが変わりそうです。また、じゃがいもの裏作として栽培される国産大豆も使い、国内外の原料市場に合わせて調達コストの上昇を抑えたいと説明しているので、豆類の商品も増えていくのでしょう。

新たな価値創造は見えない

 「食と健康」は新しい成長基盤を築くキーワードだと考えます。これまでも多用されるキーワードですが、世間に健康食品が溢れているいることからわかるように、メーカーにとっては粗利益が高い儲かる商品であるものの、消費者にとっては健康にどの程度効果を上げるのかはよくわかりません。

 カルビーが「かっぱえびんせん」を戦後間もなく発売したのは、当時の栄養不足が起因です。カルビーの社名の由来もカルシウムとビタミンB1に関係しています。成長戦略では「パーソナライズ」「デジタル×ヒューマンタッチ」「多彩なソリューション」の3テーマをあげています。

斬新で具体的な取り組みは?

 ここにきてカタカナ用語ばかりが並ぶところが残念です。個々の消費者の健康状況に合わせた食や健康管理などを提供できる体制をめざしているのはわかるのですが、スナック菓子を主体にしたカルビーの商品・生産を背景にどう具体化するのかがみえません。外部機関との連携を含めた基礎研究の強化を唱い、腸内フローラ、睡眠、栄養学などを極める方向ですが、食品メーカーならすでに取り組んでいるテーマでもあります。

 カルビーは商品、営業、生産のいずれも目指すベクトルが明確なだけに、現場を支える人材もそのベクトルに向かって走る傾向が強いと感じています。強い組織力として評価されますが、これまでの延長線上にあるとはいえ、新しい挑戦に向かう際に欠かせない柔軟な発想や決定ができるかどうか。カルビーの強さが弱さに転じる可能性も否定できません。

 「サステナブルな経営」としてカーボンニューとラス、プラスチック原料の低減、働き方の多様性などを掲げ、人事面も含めた経営全体の改革を提示しています。

強みは「軽さ」

 カルビーの成長力と事業継続力は主力商品「ポテトチップス」同様、軽さにあると信じています。幅広い商品群を抱える総合食品と一線を画しながら、強さをより強くする商品開発と組織をどう刷新していくのか。強みである「軽さ」を堅持しながら、より高みをめざして上昇し続けてほしいです。

カルビーの成長戦略はこちらから詳しく参照できます。

https://www.calbee.co.jp/ir/management/vision

 

カルビーのEco*Tenは6・8点 (注;Eco*Tenは5項目で評価し、各項目は2点満点。合計10点満点)

①透視する力;近未来をどう捉え、どのような対応が求められ、実行していかなければいけないか。見透す能力を評価します。1・8点 

 カルビーは創業間もない時から、社名の由来が示す通り、成長、事業継続の道筋を見切っています。スナック菓子という商品を扱いながら、色を通じて食生活を充実し、栄養不足解消に貢献する姿勢。この経営に従い事業を伸ばし、経営戦略を磨き直す。業績などの結果が示す通り、近未来を透視する力、実践する力は高く評価できます。

②構想する力;これから直面する状況を整理整頓して描き直し、対応できる計画を打ち立てる能力を評価します。1・5点

 透視して見えた自社の成長図に合わせて、事業展開しながら日本人の食生活の充実へ貢献しています。農家との長期契約などで原料調達のみならず、農家経営を安定させる施策はもっと注目を浴びて良いはずです。ただ、先行して実践、成功させた結果、次の一歩が出なかった印象もあります。素晴らしい構想力を持ちながら、その結果に満足してしまったわけではないでしょうが、構想を刷新することに及び腰になってしまったかもしれません。

③実現できる力;目の前には難問が待ち構えています。対応する計画をどの程度実行できるのか。それとも絵に描いた餅か。1・5点

 透視し、構想した経営戦略をこれまでは実現できました。事業を伸ばすことだけでなく、日本の食の改革にも貢献してきました。ここまで実現したカルビーです。もっと期待したいです。きっと達成すると考えていますが・・・。

④変革できる力;過去の成功体験に安住せず、幅広い利害関係者を巻き込んで新しい領域へ踏み出す決断力を評価します。1・0点

 過去の成功体験を否定する必要は全くありません。ただ、それが変革に直結するとは限りません。現状をみていると、過去の成功体験が足かせになるのではないかと不安です。

⑤ファーストペンギンの勇気と決断力;自らの事業領域にとどまらず、誰も挑戦していない分野に斬新な発想で立ち向かうファーストペンギンの覚悟を持っているか。1・0点

 直近の成長戦略を見る限り、斬新さを感じません。かつての挑戦する姿勢が薄れているイメージです。2030年までの経営改革工程は、現在の経営基盤を着実に修正する流れとなっています。ここまで大企業になった経営を破壊する無茶なことを期待しているわけではありませんが、「かっぱえびせん」「ポテトチップス」「じゃがりこ」に続く世界商品の創案を期待していたい。カルビーの強みは「軽さ」にあると思いますが、その「軽さ」は挑戦することから生まれる浮揚力です。挑戦心が弱まれば、軽さは浮いているだけ。もったいない。

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