デンソーは世界に素晴らしい幸運をプレゼントしています。「QRコード」。日常生活のあちこちで見かけ、ネット検索や買い物の決済など利用する機会がどんどん増えています。大掛かりなシステム開発や設備などが不要で、手軽に支えるため世界中で使われています。
QRコードは開発、世界に広める
1994年、トヨタ自動車の生産方式で必要な部品管理などで使用するために創案しました。デンソーが素晴らしいのは、特許で縛らず誰でも使えるよう開放したことです。ESG、SDGsの観点から見たら、これだけで満点です。
QRコードこそデンソーの強さを象徴しているかもしれません。自動車部品メーカーとして納入先が必要としている技術と部品を開発、生産する。誰でも利用できる手軽さも必携。自動車は3万〜5万点の部品を組み立てて完成します。デンソーが部品メーカーであるのに対し、トヨタなどが完成車メーカーと呼ばれる所以です。完成車の工場は熟練した技能者だけでなく、期間工と呼ばれる部品を組み込む工員が多数占めます。品質が常に安定し、組み込みなどでも扱いやすい。デンソーからみれば、部品開発の延長線上でQRコードを創案したに過ぎません。
デンソーが2022年12月に発表した「2035年の世界に向けた技術開発」を参照してください。自動車というフィルターを介していますが、現在、そして近未来の社会に必要とされる技術を開発、研究していることがわかります。その幅広いこと。ただ、QRコードの開発力と普及はむしろ珍しい例です。誰の目にも触れない部品として知らない間に使い、生活を支えているものばかり。
「デンソーの企業価値向上戦略」は、こちらのアドレスから参照できます。
「2035年の世界に向けた技術開発」はこちらから
近未来を読み切っているのに・・・
しかし、視点を変えると、課題が浮き彫りになってきます。「デンソーが技術開発の成果をいかに伝えるか」という熱い思いを詳細に伝えようとするのですが、専門的な知識がなければよく理解できないことに気づくはずです。わかりやすいイラストやストーリー展開が今ひとつ。残念、ホントもったいない。
ESGやSDGsの視線に答えるには、「企業は社会に必要とされているのか」という価値に多くの人に理解してもらうことが肝心です。デンソーが高い企業価値を保有しているのは明らかです。ただ、その存在感を多くの人に知ってもらう努力が足りません。いえ、経験が不足しているという表現が適切かも。
トヨタの殻を破れないのは宿命
トヨタの経営理念は、結果がすべて。世に送り出した自動車が「トヨタ」を語ってくれる。自ら饒舌に誇ることは、恥ずかしい行為でした。トヨタが沈黙を貫くなら、系列部品メーカーが対外的に物申すことはありえない。1980年代までデンソーやアイシンなどトヨタ系列の頂点に立つ部品メーカーは新聞取材をほとんど受けず、発表するのは決算数字ぐらい。自ら発信する姿勢はありませんでした。トヨタの広報担当幹部が打ち明けてくれました。「トヨタの広報は耐えること」。どんな批判があっても、トヨタが多くを語ることはないのだと。
沈黙は金、昭和の遺物を捨てる時期
しかし、ESG、SDGsは昭和の遺物ともいえる沈黙を許しません。情報公開を通じて企業の社会的責任を多くの人に説明し、批判を浴びる覚悟が必須です。あらゆる批判をシャワーに企業の実力が進化し、地球環境と共存できる事業が可能になるからです。
デンソーは企業活動として実現していますが、それを説明するノウハウが欠けています。
公正取引委員会は2022年12月、下請け企業に対する価格交渉を怠っている大企業13社を公表しました。独占禁止法の番人である公取委ですが、違反に触れず不正と目されるレベルで公表するのは極めて異例です。デンソーはトヨタ発祥の企業である豊田自動織機とともに名指しで批判されています。
公取委の指摘を機会に変革加速を
トヨタは系列や取引業に対し毎年、生産合理化の結果として部品値下げを求めます。この値下げを吸収して新たな部品開発を実現、企業収益を増やすのがトヨタ成長のエンジンであり、常識です。デンソーや豊田自動織機にしてみれば、トヨタの常識を貫いているだけという意識だったかもしれませんが、ほとんどの中小企業が長年思うように賃上げできずに苦悩している時が続いています。トヨタが時代の変化を読み誤っている証左ですが、デンソーが自ら変革する意識が不足していたのも事実。デンソーの可能性は日本経済にとっての可能性に直結します。トヨタの硬い殻を打ち破って、デンソー自ら描いた道を疾走して欲しい。QRコードのように世界のあちこちにデンソーを見かける日が待ち遠しいです。
Eco*Tenの残る3項目を始めます。
③実現できる力;目の前には難問が待ち構えています。対応する計画をどの程度実行できるのか。それとも絵に描いた餅か。1・5点
実現できる力は十分にあります。経営計画では、人流、物流、エネルギー流、資源流、データ流というカテゴリーを設定して、デンソーが挑むテーマを提示しています。見透す力、構想する力は証明済。あとは実現するだけ。
④変革できる力;過去の成功体験に安住せず、幅広い利害関係者を巻き込んで新しい領域へ踏み出す決断力を評価します。・1・0点
変革できる力も十分にあります。そのカギはトヨタの殻をどう打ち破るのか。それは部品メーカーとしてのアイデンティテーを捨て、新たなデンソーを構築することを意味します。台湾のTSMC、ソニーとともに半導体工場を熊本県に建設していますが、トヨタ域外の分野をどう拡大するか。TSMCも当初は半導体受託生産でしたが、今や受託生産の冠はつくものの、世界最大の半導体メーカーの地位を獲得しています。目の前に良い見本があります。あとは決断と覚悟だけでしょうか。
⑤ファーストペンギンの勇気と決断力;自らの事業領域にとどまらず、誰も挑戦していない分野に斬新な発想で立ち向かうファーストペンギンの覚悟を持っているか。1・0点
ファーストペンギンの勇気は持ち合わせています。QRコードが良い例です。斬新な発想で新技術を開発、しかも特許で縛らずに世に広めて、社会のインフラを変えてしまう。世界でもそうある例ではありません。デンソー自ら喧伝していないので当たり前のように使われていますが、アップルのiPhoneに代表されるスマートフォンの登場に匹敵する衝撃を世界に与えています。
しかし、その技術最優先の姿勢は時には企業そのものの評価を傷めます。公取委で警告を受けた不正事例を見逃すわけにいきません。デンソーは技術五輪でいつも技能者を派遣し、優秀な成績を獲得する「技術最優先」の哲学に染まる職人気質の企業です。技術を大事にする企業はとても好きなです。一方で社会や人権を脅かすような行為を自らゼロにするリーダーシップを求められる実力がありますし、実行しなければいけない立場にある会社です。差し引きしないわけにはいきません。
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