「あれ、なぜ彼が雑誌の写真で紹介されているんだろう」。ある雑誌を眺めていたら、大学ゼミの同級生が学生らと一緒に並んぶ写真が掲載されていたのです。彼は慶應義塾大学に残り、教授を務めています。不思議に思い、雑誌をよく読んだら、横に並ぶ学生さんは、こおろぎを食の素材に活用するベンチャー企業を立ち上げた社長でした。
早慶でこおろぎのベンチャー企業
学生の彼はテレビのあるバラエティ番組で「昆虫好きで、飼育するだけでなく食べることも好き」といったイメージで紹介していたので、すぐに納得しました。「社会常識に縛られずに何事にも挑戦しろ」と教える大学ですから、その学生がベンチャー企業を設立して「こおろぎの食品メーカー」をめざす心意気は頼もしかったです。
こおろぎを食の素材に利用する動きが広がっています。
昆虫をビジネスにするのは慶応義塾大学だけかと一人合点していたら、あるESG・SDGs関連のイベントで早稲田大学から生まれたベンチャー企業と出会いました。
エコロギーという会社です。ESGの理念の通り、持続可能な生態系と社会を実現するため、食素材として大きな可能性を持つ昆虫に注目し、最も食材として利用しやすい「こおろぎ」を製品化しています。現在はカンボジアでこおろぎを大量生育して、飼料や食品に仕上げて世界に販売しているそうです。環境のエコと昆虫のこおろぎを組み合わせた社名のセンスの良さから事業の本気度を感じます。
高タンパク質、高栄養素、高生産性
こおろぎが食材として注目されるのは、なんといってもその生産性とエネルギー効率の高さです。まずタンパク質。100グラムあたりで比べると牛・豚・にわとりの3倍。高タンパク質に加え、亜鉛や鉄分などミネラルも豊富です。味はエビやカニなど甲殻類に近い旨味と風味があるそうです。食べたことがないので、あまり想像はできません。
一方、餌の量は、にわとりの70%弱、豚の30%ちょっとで済みます。牛と比べても20%削減できるそうです。飼育場所も家畜と比較しても、大きな空間は必要ありません。「こおろぎを食べるのは無理」といった昆虫に対する先入観に囚われなければ、人口増と食料危機に直面する世界各国にとって格好の食材として注目を浴びるのは当然です。
無印良品も製品化
世界各国で人気を集める「無印良品」を展開する良品計画は、徳島大学と組んで「コオロギせんぺい」「コオロギチョコ」を商品化しています。さすがです。次代の波を捉えるのがうまい。
こおろぎは秋の到来を告げる虫の声の代表格です。真夏のセミの声が小さくなったなと感じたら、過ごしやすい気温と空気を覚える夕方にこおろぎの声が聞こえてきます。日本ではイナゴや蜂の子などを食べる習慣がある地域があるので、昆虫を食べることに抵抗感を持つ人は少ないでしょう。
世界の食をどこまで支えるか
こおろぎはラーメンのスープの素、スナックなどに姿を変えて、人間を支えていくのでしょう。あと10年も経ったら、こおろぎは「俳句の秋としての季語」から、地球上の食料不足を解消する「食の主語」としてその立場が大きく変わるのです。
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