かつてのキーエンスを彷彿しました。日本電産です。環境、ESGなどを説明する経営計画をホームページで眺めていた時でした。
日本電産は、言うまでもなく日本を代表する高収益企業。創業者の永守重信さんは株式投資家ならほとんどの人が注目している人物です。彼の一言が日経平均を動かすと言われました。事実、株式市場の足元がふらふらの時でも、永守さんが決算会見で強気の見通しを発現すると日経平均がキュ〜ンと右肩へ跳ね上がったものでした。
創業時からの猛烈な仕事ぶりは有名です。「目標は達成するためにある」といったレベルではありません。”手が届きそうもない目標でもやりにくもの”なのです。それは事業計画で実証済み。主軸の小型モーターを底上げしながら過去最高益を計上し続け、経営環境の変化に合わせて主力製品の品揃えを移していきます。声高に経営目標を語る経営者はあまたいますが、永守さんはそんな平均点で語れる人ではありません。
経営の凄みは、実際に新製品開発できる技術を取り込み、事業化できる優秀な人材を採用できる実力と慧眼にあります。その慧眼をEco*Tenしたら、どうか。そんな素朴な眼で改めて日本電産を眺めてみました。
作成した計画や人員体制など環境やESGへの取り組みはどれも素晴らしい。企業として取り組まなければいけないテーマ、具体策をしっかりと抑え、もちろん合格点をしっかりと手にするレベルです。優等生の答案を見ている様。
ただ、計画を説明する文字数がとても多いのには驚きました。写真、動画、イラスト、グラフなどを多用する最近の経営計画と対照的で、質実剛健の言葉を思い出しました。読む必要がある人は読むでしょうが、気軽に日本電産の環境やESGの取り組みを知りたい人は果たして読むでしょうか。厳しいかもしれませんが、「知って欲しい」という気持ちがあまり感じられません。
あえて例えれば、製品の発注書のようです。すべて正確に記しています。読み込めば理解できます。だから、間違いは起こらない。ビジネスで取引関係にあるのなら問題はありません。しかし、環境やESGは企業の社会的な存在、価値も考慮します。良い製品を生産、提供していれば良いと考えるなら、時代に取り残されています。
環境やESGを計画、実行するうえで卓越した人材を配しています。あれだけの陣容を構えながら、どうしてこのような経営計画がホームページに掲載されるのかちょっと不思議です。ホームページは日本電産と取引関係がない人にも理解できる様に制作するはずです。環境やESGの現場と経営陣に距離があるのではないか、しっかりと意見が反映されているのか。疑問が湧いてきます。
元々、日本電産は見かけよりも内実。実行することに意義がある。永守さんが環境やESGについても経営企画担当に向かって、げきを飛ばしている様子が目に浮かびます。
冒頭のキーエンス のエピソードに戻ります。もう20年以上も前のことです。新聞社で環境担当デスクを務め、「環境経営度調査」を実施しました。全上場企業を対象にアンケート調査を送り、回答を求めました。アンケートの回答項目は多く、しかもCO2の排出量だけでなく環境経営の効率など改めて計算してもらう必要もあって、手間のかかるものでした。「こんなに負担が重いアンケートを急に送りつけて」とのご批判をたくさんいただきました。
しかし、1990年代後半とはいえ、地球温暖化に対する企業経営の視線は厳しさを増していました。足尾銅山や水俣病などかつての公害事件の再燃はもちろん、企業経営としてどう変わるかを示さなければ将来に禍根を残すと考え、調査を実施します。回答企業は確か800社程度。上位ランキングに顔を連ねたのは、今も環境やESGなどで上位を占める企業ばかり。そして調査の最下位はキーエンス でした。
当時のキーエンスはすでに高い収益力と独自の経営モデルで幅広い層から高い評価を受けていました。しかし、環境経営度調査は最下位。キーエンスには高収益を維持し、株主や従業員にしっかりと利益還元できれば良いではないかというメッセージを発しているのではないかと考えたものでした。
日本電産の環境・ESGに対するEco*Tenはまさに20年以上も前に発したキーエンスのメッセージと重なります。あれから20年以上も過ぎた現在との時間差、意識の変化を考慮してEco*Tenの評点をつけました。
Eco*Tenは5項目で評点、各項目は2点満点。合計で10点満点。日本電産は5点です。
①透視する力;近未来をどう捉え、どのような対応が求められ、実行していかなければいけないか。見透す能力を評価します。0・5点
②構想する力;これから直面する状況を整理整頓して描き直し、対応できる計画を打ち立てる能力を評価します。1・5点
③実現できる力;目の前には難問が待ち構えています。対応する計画をどの程度実行できるのか。それとも絵に描いた餅か。1・5点
④変革できる力;過去の成功体験に安住せず、幅広い利害関係者を巻き込んで新しい領域へ踏み出す決断力を評価します。1・0点
⑤ファーストペンギンの勇気と決断力;自らの事業領域にとどまらず、誰も挑戦していない分野に斬新な発想で立ち向かうファーストペンギンの覚悟を持っているか。0・5点
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