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スズキEco*Ten7・1点(下)インドなど途上国の経験と貢献が「スズキらしさ」をより強く

 スズキは、「やるぞ」と言ったら、やり抜くのが真骨頂です。環境経営の視点でみると頭抜けた存在ではありません。気候変動対策が喫緊の課題、というか避けて通ったら会社の存続は考えられない時代に突入しました。「2030年度に向けた成長戦略」の内容に派手なキャッチフレーズは見当たらないものの、着実に実行できる具体策が並びます。目標に掲げたことをやり抜く「スズキらしさ」を考慮すれば、戦略の実効性は期待できます。

 Eco*Tenで第1、第2の項目は高い評点になりませんでしたが、第3項目以降はその実践力に注目します。

③実現できる力;目の前には難問が待ち構えています。対応する計画をどの程度実行できるのか。1・5点

 電気自動車を2023年からまず日本から投入を開始します。欧州とインドは翌年の24年からです。ただ、インドはCO2を排出しない車としてEVやハイブリッド車のほかに天然ガスやバイオガスなどを燃料としたエンジン車を設定し、これが過半を占める計画です。インドの発電、充電事情を考慮すれば、一気にEVへ転換するのは現実的ではありません。

 スズキはバイオガスを生産するため、牛糞をガスに転換する事業に取り組んでいます。成長戦略では、「10頭の1日の牛糞≒1台の1日の燃料」と明記しています。CO2を吸収して育った草を牛が食べ、排出した糞を回収。バイオガスや一部を有機肥料に転換します。そしてクルマの燃料として消費し、排出したCO2は再び牛の餌となる草が吸収する。まさにカーボンニュートラルの典型的な図式です。牛の糞をキーワードに描くのは、スズキぐらいではないでしょうか。

 トヨタや日産自動車、ホンダは経営戦略に例として取り上げないでしょう。あえて「牛の糞」を例に挙げて強調するパフォーマンスが「スズキらしさ」なのでしょう。

 カーボンニュートラルといえば、太陽光など再生可能エネルギー、CO2を削減する事業改革、EVの大量投入、水素などの燃料活用などが定番メニューになりがちです。そのなかでスズキにしかできないテーマを強調するあたりに「実現をするぞ」という覚悟と読み取ることができます。

④変革できる力;過去の成功体験に安住せず、幅広い利害関係者を巻き込んで新しい領域へ踏み出す決断力を評価します。1・8点

 EVを開発するため、資本提携するトヨタはじめグループ企業との連携をより密にしています。長年、スズキと軽トップシェアを争ってきたダイハツ工業はトヨタグループの一員。そのライバルと手を組み、EV開発に取り組みます。スズキ自身に開発余力が乏しかったうえ、軽市場での激しい消耗戦はもう避けたい思惑も絡んでいます。EV時代の到来を好機と考え、スズキとダイハツは軽も含めて自動車メーカーとしての一体化が進むはずです。

 スズキは世界の自動車メーカーのなかでみれば中規模なメーカーです。いわば中小企業でありながらも、米GMと資本提携して現地生産も含めた北米戦略を展開する一方、インドやハンガリーなど他の自動車メーカーが及び腰の市場へ果敢に出て行き、自らの生きる場所を確保してきました。

 そのスズキがハンドルを大きく切ります。カーボンニュートラル時代を見据えてトヨタグループ入りを決断、長年のライバルと手を組んで自動車生産・販売を抜本的に再構築する道を開きます。変革する力は十分に高く評価して良いのではないでしょうか。

⑤ファーストペンギンの勇気と決断力;自らの事業領域にとどまらず、誰も挑戦していない分野に斬新な発想で立ち向かうファーストペンギンの覚悟を持っているか。1・8点

スズキを世界企業に押し上げた鈴木修さんは、個性的な言動と大胆な経営判断で幅広い人気を得ています。軽商用車の普及と社会貢献に役立つとして自ら推進する「軽トラ市」では、修ファンが一緒に写真を撮りたいと家族連れが押し寄せます。修さんの凄さは、先行きの変化を読む力と誰も予想しない領域に飛び込む決断力です。背格好も似ているせいか、まさにファーストペンギンそのものです。

 その挑戦力は事業拡大と存続に注ぎ込まれていました。次代に経営を継承した後も、新しい挑戦を恐れない魂は残っています。「牛の糞でクルマの燃料を」と経営戦略に明記する会社です。つまらないメンツなど見当たりません。浜松の地盤とした「自動車メーカーの中小企業」としてカーボンニュートラルに向けた生産、開発の変革を着実に実行していくのは間違いありません。派手なパフォーマンスは期待できませんし、すべきでもありません。日本の製造業の大半を占め、根幹である中小企業が直面するカーボンニュートラルに対する解答を示し続けていくはずです。

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