東京都が2025年4月から新築する戸建て住宅に太陽光発電を義務付ける方針を固めました。戸建て住宅を対象とするのは全国初です。義務化の狙いは脱炭素社会への移行を呼びかけることでしょうが、これを機会に東京都の電力需給は東京以外の地方に大きく依存している歪な構図を自覚して欲しいです。福島県や新潟県など首都圏以外の地方に偏重した発電のリスクは東日本大震災の大停電で思い知ったはずです。地方で発電した電力に支えられている東京都の日常生活をどう維持していくのかを考えるのもカーボンニュートラル社会への一歩です。
2025年から新築の戸建てに太陽光パネルの設置を義務化
東京都は9月9日に基本方針を発表し、2022年12月の都議会に関連条例の改正案を提出します。2025年の施行までは、太陽光パネルを屋根などに設置する費用、設置後の維持・管理費を精査し、設置を支援する補助金制度などを検討します。太陽光発電はパネルだけでなく蓄電など関連設備も必要になります。「さあ、やろう」と言っても費用負担や工事などが控えており、住宅メーカー、工事会社や戸建てをつくる都民に対し義務化の趣旨を理解してもらえなければ、手間と費用が増えるだけとの誤解を招きますから。きっと設置義務を負う住宅メーカーや工務店への支援も充実するはずです。
設置費用は高価ですが、毎日使う発電コストを知る機会
簡単に説明すると、太陽光発電を設置する場合、まず太陽光パネルや架台、電流を変換するインバーターなどの設備と設置に工事費用がかかります。住宅の屋根に取り付ける費用は150万円ぐらいからだそうです。太陽光発電の施設は毎日の使用で傷みますし、修理維持する費用も生まれます。
東京都は脱炭素などカーボンニュートラルの発想で戸建ての太陽光電池の設置を狙っています。これまでも企業などの設置を支援する自治体はありましたが、戸建てまでは踏み込めませんでした。東京都が全国初の条例改正に挑む意欲はわかります。
東京都民にとってエネルギー消費の意識改革になれば
東京都がカーボンニュートラルへの決意を表明したわけですが、日本の首都、東京の繁栄は福島県や新潟県の原子力発電所の稼働があって維持されてきた事実を忘れないで欲しいです。福島第一原発事故によって現在、両県とも原発は廃炉あるいは運転休止に追い込まれています。しかし、東京電力が青森県も含めて遠方から電力を首都圏へ送電し、供給する構図に変わりはありません。遠方から高い電圧を維持しながら送電する技術は「どの国も追随できない」と東電の技術者が胸を張って説明するほど世界的レベルだそうです。
たとえ東京都内の脱炭素が進んでも、地方でCO2を排出し続けていたら「ゼロミッション」と東京都が声高に唱えても苦笑するしかありません。今夏、そして今冬は厳しい電力需給が続きます。福島や新潟の原発は稼働できず、老朽した火力発電を再稼働させるなどなんとか乗り切っています。政府は原発の再稼働や新増設へ舵を切りましたが、そう簡単にできるわけがありません。東京都が新築戸建てに太陽光発電を義務化したといっても、原発1基分を戸建ての発電で換算すると数十万戸に相当するそうです。地方に偏重した発電に頼らざるを得ない東京都はじめ首都圏の電力需給の構図はこのまま続きます。
カーボンニュートラルは石油やガスなどエネルギー価格の高騰などで経済原理に背中を押される形で進むでしょう。新築戸建ての義務化も太陽光など再生可能エネルギーがより身近になり、日常生活と発電コストや手間を知ることでエネルギーを野放図には使えないことを改めて自覚する良いきっかけです。そして原発事故で福島県など地方に大きな犠牲を支払わせた事実とともに、東京都はじめ首都圏は依然、電力需給で”砂上の楼閣”に住んでいることを知るべきです。太陽光発電の義務化に続く第2歩、第3歩を怠るわけにはいきません。
コメント