経済産業省が2040年度を目標にしたエネルギー基本計画の骨子案を固めました。2040年度の電源は再生エネルギーが過半を占めるものの、原子力発電所への依存に回帰します。安定した電力供給と脱炭素化を両立するため、これまでの「可能な限り依存度を低減する」との表現を削除して再生可能エネルギーと原子力を「最大限活用する」という表現に変えました。原発の不安を拭えないまま、東日本大震災前のエネルギー政策に戻ります。国民を納得させるためには「東京に原発を建設する」ぐらいの論議が必要ではないか。エネルギー政策を議論する機会を増やすためには、このぐらいの無茶振りが必要かも。
電力需要は人工知能などで2割増へ
日本の電力消費量は増える一方です。人工知能やデーターセンター、半導体工場など電力多消費型の産業が日本全国に広がると想定しており、旺盛な需要を賄うため、2040年度の発電量を1・1兆~1・2兆キロ・ワット時と試算しました。2023年度実績に比べ10〜20%増加する勢いです。
基本計画の骨子案の柱は3本あります。2040年度の電源は再生可能エネルギーが全体の40〜50%を占めます。欧州や中国に出遅れたと批判を浴びていましたが、猛烈な設備投資を重ねて日本経済を支える大黒柱になります。「依存度を可能な限り低減」という表現を削除した原発は20%程度。火力は30〜40%と設定しました。
再エネは過半に、原発は20%
原発依存に回帰といっても、現在の日本はCO2を大量に排出する石炭、石油、ガスなど化石燃料を活用する火力に大きく頼っています。世界では石炭火力の縮小、あるいは停止が必要と指摘されています。英国は2024年10月、最後の石炭火力を停止しました。ちなみに世界初の石炭火力発電所は、米国の発明家トーマス・エジソンが1882年にロンドンに建設したものです。以来、産業革命が始まり、今の世界経済があるわけです。英国の火力は142年の歴史を閉じ、地球温暖化防止策に危機感が募っている欧州、とりわけ英国の覚悟をみせつけました。
日本も石炭火力など化石燃料の依存度を下げる方針に変わりはありません。しかし、代替となる原発が計画通りに稼働できまければ、石炭火力の廃止の道は全く見えません。経済産業省は原発拡大に向け、あらゆる施策を打っています。原子力規制委員会が安全性を確認した発電所の再稼働を積極的に進める一方、小型の次世代炉の開発も加速しています。新増設を後押しするため、廃炉を決めた原発を持つ電力会社が、別の原発敷地内で建て替えることも認めました。
ここまで政策転換するなら、政府は覚悟を示す必要があるのではありません。そう東京に原発を建設しましょう。昔、「原発が政府の言う通り安全なら、東京で建設したらどうか」という意見がありました。福島など東北地方の原発で発電した電気は首都圏に送電されていますが、不安が拭えない原発を人口が少なく、地域経済が弱い東北や北陸の足元を見て原発を建設していると考えたからです。
電力会社は「用地取得代が桁外れに高額になる」「原発関連施設を建設する広大な用地を確保できない」を東京に原発を建設しない理由として反論していました。素人目で見ても、万が一の事故があった場合、甚大な被害が広がるのはわかります。
原発が県庁所在地の松江にあるなら、東京だって
でも、2024年12月から県庁所在地の松江市にある原発が再稼働したのです。中国電力の島根原子力発電所2号機です。所在地は松江市の日本海側。もともと八束郡鹿島町でしたが、2005年に松江市と合併したため、以後は日本で初めて県庁在地にある原発となりました。
原発の場所は松江市の中心部から距離はわずか8キロ余り。避難計画の対象となる30キロ圏内に45万人が住んでいます。再稼働を認められたのは万全な安全対策。地震や津波などの災害を想定した緊急時の電源確保、冷却設備など64項目を強化しました。万が一、格納容器に放射性物質が充満しても拡散を抑えるフィルター付きベントも採用しました。
小型で安全な原発が開発が進んでいます。「小型モジュール炉(SMR)」と呼ばれ、出力が30万キロワットと従来の3分の1程度に抑えられています。安全対策も規模が縮小するだけあって、管理が容易になるといわれています。まだ発展途上の技術ですが、世界で開発が加速中です。
反対のための反対ではありません。政府も国民の反発を怖がらず、広く深く論議し、選挙などで問い直したらどうでしょうか。