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一条工務店、タマホームなどを悪質例と公表「下請けいじめ」は消費者の購買動機に影響を与えるか

 大企業が取引先の中小企業との価格交渉や価格引き上げに消極的な姿勢を示す、いわゆる「下請けいじめ」が問題になっています。公正取引委員会や経済産業省の中小企業庁は悪質な企業名を公表し、下請けいじめの改善を求めています。狙いは企業間取引の改善とともに、当該企業の製品やサービスを利用する消費者にも伝えること。消費者が知る「表の顔」ともう一つの「裏の顔」の存在を教え、事業そのものに打撃を与えることです。果たして公表企業にとってマイナスになるのかどうか。

企業の「表の顔」と「裏の顔」

 中小企業庁を例に見てみます。定期的に価格交渉促進月間のフォローアップとして30万社にアンケートを配布しており、2023年9月は3万5175社、2024年3月は4万6461社が回答しました。このうち約2000社を「下請けGメン」がヒアリングしました。調査結果は価格交渉や転嫁の状況を10点満点で採点してもらい、平均値を「7点以上」「7点未満、4点以上」「4点未満、0点以上」「0点未満」の4段階に分けて企業を評価しました。

 2023年9月は10社以上から交渉時に問題ありと公表された企業数は220社。2024年9月の調査で10社以上の中小企業から問題ありと公表されたのは290社。公表された企業名は、業種別では建設・不動産、運輸が多く、東建コーポレーション、住友不動産、ミサワホーム、ヤマト運輸など有名企業が並びます。

一条工務店、タマホーム、エディオンはかなり悪質

 20204年3月調査で最も低い評価を受けたのは、一条工務店、タマホーム、エディオンの3社。一条工務店、タマホームは戸建て住宅を割安に販売しているハウスメーカーで、日本でもトップクラスの販売実績を上げています。エディオンは家電量販店のヤマダ電機、ヨドバシカメラなど競う全国チェーンです。中小企業庁の調査で公表されたことで、売り上げに影響するのか。3社とも「安さ」を前面に出しており、購入する立場からみれば割安に手に入れば問題ないと割り切るかもしれません。

 この3社に続いて評価が低いのは大東建託とヤマト運輸。2023年9月、2024年3月それぞれで価格交渉・転嫁とも「4点未満、0点以上」と評価した中小企業数はヤマト運輸は39社から77社へ、大東建託は22社から52社へと倍増しています。中小企業庁が企業名を公表しても交渉の手綱を緩めるどころか強めたのか、あるいは「下請けいじめ」を我慢していた取引先がどんどん本音を曝け出し始めたのか。ヤマト運輸、大東建託ともに本気で交渉姿勢を改めなければ、企業評価そのものが毀損するのは確実です。

続くのは大東建託、ヤマト運輸

 大東建託はアパートなど賃貸住宅、ヤマト運輸は宅配便で積極的に広告を打っており、知名度は抜群。中小企業庁が悪質例として公表しても、業績に打撃が加わることはないのでしょう。

 政府が下請けいじめの改善に力を入れるのは、中小企業の経営を健全化し、従業員の賃金を継続的に引き上げる経営環境を構築するためです。日本の事業所数のほとんどを占める中小企業の収益率は低い水準にとどまり、賃金を引き上げる余力がありません。

 消費者からみれば一見、「下請けいじめ」は縁遠いと映るかもしれません。しかし、お金は天下の回りもの。日本の賃金を押し上げるきっかけになるなら、悪質と公表された企業の製品やサービスを買い控える消費者行動も賢明だと考えます。

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