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三菱UFJ銀 顧客情報を違法に共有 窓口は厳守でも経営の本音は収益重視

 三菱UFJ銀行で不思議な体験をしたことがあります。ある支店のカウンターでの一問一答です。

自分の口座なのに「個人情報はダメ」

私の口座の出金について確認したいのですが、良いですか」 

「それは個人情報なので、答えられません」

「いえいえ、自分の口座です。身分証明書も持っています。通帳に記載されている出金先の名称がどこの会社かどうか確認したいだけです」

「それは個人情報に相当しますから、教えられません」

だいたい相手はわかっているのですが、自分の口座なので銀行で確認すればすぐに済むと思い、訪ねました。そちらで正しいか間違っているかを確認してもらえるだけでもダメですか」

「教えられません」

「繰り返しますが、自分の口座なのに個人情報保護で教えられないとなれば、私は自分の口座内容を確認できないのですか。その個人情報は誰のものですか」

「ダメです」

窓口の担当者は次第に興奮し、目つきも口調もキツくなります。

カスハラ寸前に

 自分自身の銀行口座の詳細を訊くために窓口の担当者に質問したら「個人情報ですから、教えられません」の一点張り。自分の口座について質問できないなら、銀行が保有している個人情報は誰のものなのか。真剣に問い正そうと思ったのですが、これ以上質問したら、今流行の「カスタマーハラスメント」になってしまうと心配しました。こちらは60歳を超えたシニアの男性。相手は20歳代の女性。傍目にはいじめていると勘違いされるかもしれません。自分の口座について質問して、カスハラ扱いされるのは嫌ですよ。

 当然ですが、自分の口座の出金に疑問を感じ、銀行に確認を求めたら断られる。そうなったら、誰に訊ねれば良いのか。シンプルな疑問をずっと引きずっていました。

トンチンカンなやりとりの理由がわかった

 トンチンカンなやり取りの理由がやっとわかりました。三菱UFJ銀行は個人情報保護の徹底を窓口業務など現場に押し付け、現場で判断する余地などは与えられていなかったようです。一方で、経営陣ら幹部は自行の収益を拡大するため、個人情報保護を逸脱するのを承知で使い勝手の良いように流用していたのです。

 金融庁は、融資先企業の非公開情報を無断で共有するなどしたとして、三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下の三菱UFJ銀行と系列証券2社に対して、金融商品取引法に基づき業務改善命令を出しまし。2021年から23年にかけて、顧客9社の情報を利用、「ファイアウォール規制」に違反したのです。ファイアウォール規制とは銀行と証券が顧客の非公開情報を顧客に無断で共有することを禁じるもので、顧客、あるいは個人の情報を勝手にビジネスに流用することを認めていません。

ファイヤーウォールは消失

 当たり前です。銀行は口座を見れば、誰それがどれだけの資産を保有しているかがわかります。これだけの預金を抱えているなら、株式などに投資できるはずと判断できます。銀行から「この預金をもっと増やしませんか」と問い合わせの電話がかかってきた経験を持つ方もいるかもしれませんが、銀行、証券が一緒になって「この株式を購入しませんか」と営業されたら、個人はたまりません。

 ファイアウォール制は、銀行が子会社を通じて証券業務に参入を認められた1993年に導入されました。銀行は融資先の企業情報を熟知しており、融資を盾に系列証券会社との取引を強要する可能性があります。銀行と証券の壁を厳密にすることで、個人情報を保護するとともに、金融機関同士の競争環境を維持する狙いです。

違反はかなり悪質

 ところが、三菱UFJ銀行は越えてはならない防火壁を簡単に無視しました。かなり悪質です。新聞などによると、三菱UFJ銀の当時の役員は、顧客企業が株式の売り出し情報を三菱の系列証券に伝えないよう確認していたにもかかわらず、系列証券に情報提供しました。三菱UFJ銀の行員は、銀行が禁じられている有価証券も勧誘しています。

三菱がこうなら、金融業界の現実・・・

 今後、窓口に訪ねたら、どう対応してくれるのでしょうか。きっとさらに強めに「個人情報ですから教えられません」と跳ね返すのでしょうね。上司は厳守を命じており、窓口の担当者はこれまで以上に自分自身で判断しないでしょう。個人情報保護の趣旨からさらに遠のいていきそうです。

 三菱UFJ銀行はかつて日本銀行総裁を送り出すなど、金融の信用と秩序を守る気概がありました。今回の違反は一部の人間による失敗とは思えません。三菱グループの現状とともに、日本の金融業界の現状を曝け出しているのです。

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