企業の経営再建をめぐる話題を見ていると、投資ファンドが当然のように登場します。最近では名門企業の東芝がファンドのてのひらでコマのようにくるくる回され、その惨状をみて悲しい思いをしました。新興企業でいえば、ビッグモーターでしょうか。損保ジャパンのトップ辞任にまで発展した自動車保険金の不正請求事案を引き起こした企業です。誇張されて吹聴されているのかもしれませんが、杜撰な経営やハラスメント行為にはただただ驚きます。企業再生が得意なファンドが仲介して伊藤忠商事を巻き込み、伊藤忠が主導して会社再建に取り組みます。
再生ファンドは東芝、ビッグモーターで活躍
もっとも、企業として存続する価値があるのか甚だ疑問です。ファンドの立場からすればマネーがぐるぐる回れば、収益が上がります。結果オーライかもしれませんが。
様々なM&Aなどで舞台回しのように登場する投資ファンド。価値が大幅に低下した企業を買収し、その後に企業再建に成功し、株式を再上場すれば巨額の利益を手にします。ファンド経営の基軸です。株式を上場している企業が対象かと考えていたら、勘違いでした。再生案件として学校法人も視野に入っているようです。日本中にいつも多くの話題を提供する週刊誌の記事で知りました。
自閉症教育で知られる学園の運営を握る
その再生ファンドの主宰者が自閉症の生徒と健常児を一緒に教育することで長い実績を持つ学園の運営を握り、生徒や親御さんらと学園の運営について揉めています。ファンドが傘下に収めた企業の中にはテレビなどで盛んに広告する「メガネ式ルーペ」を生産し、大ヒットさせています。広告宣伝費は100億円を投じていると公表していますが、巨額の経費を使っても利益を捻出できるのですから、再生ファンドのトップとしては凄腕なのでしょう。自らは日本でも有数の金持ちだと学園の集まりで家族らにアピールしているそうですから、ものすごい資産があるようです。
学園運営の実権を握るため、まず1億円を寄付して理事職を獲得。直近、理事長にも就任しました。理事会を監督する評議員についても理事長の家族や利害関係者らが就任し、理事会と評議員会が足並みをそろえる体制を敷きました。再生ファンドで企業を買収し、経営権を握る術を熟知しているだけに、手際が素晴らしい。噂話を聞いているだけで、プロのファンドマネジャーだとわかります。
教育現場で発達障害などは喫緊の課題
この再生ファンドのホームページを見ると、東芝など名門企業を標的にせず中堅クラスを取り込んでいるようです。文化事業にも注力しています。山梨県の美術館を上場企業から買収して自らの名前を冠した美術館にリニューアル。同様に美術界の新人育成に向けて、こちらも自身の名前を付けた賞を創設して、支援しています。再生ファンドで培った経験とノウハウで収益に直結しないと見られる美術の世界を支援しているのでしょうか。
学校教育も同じ延長線上にあるのでしょうか。教育現場では発達障害などで学習や行動などの面で困難を抱える子どもたちは8・8%に上ると文部科学省が202年12月に公表しています。子育て政策を加速する政府にとって喫緊の課題となっています。
先ほどの再生ファンドの主宰者は自閉症を抱える子どもを対象にした小中高の教育で評価を高めていた学園の運営を手にした訳ですから、学習や行動などで困難を抱える教育に対し自身の考えを持っているはずです。再生ファンドが収益にばかり目を奪われいるわけではなく、ESGやSDGsの観点から社会貢献を果たそうと考えているのかもしれません。独自の視点から課題に向けた糸口をどう提示するのか楽しみです。
伝説の投資家はESG投資を否定
もっとも、ファンドとESGは両立するのかといえば、やはりかなりの難問のようです。2005年の長者番付1位にもなった伝説のファンドマネジャーと評された清原達郎さんが「ESG投資は全くナンセンス」とネットメディアのインタビューで断言しています。環境問題などは複雑すぎて投資のポートフォリオを設計するのが難しく、結論を見い出せないのが理由だそうです。個人資産は800億円を超える実績を持つ人物だけに、説得力があります。
学校経営の手腕を眺める価値は?
果たして再生ファンドの主宰者は、自閉症と健常児の混合教育で知られる学園をどう変えていくのでしょうか。ファンドと美術、そして教育は別の世界と考えているかもしれません。ただ、ファンドマネジャーとして積み上げた実績を教育にどう活かすのか。その経営手腕をファンドとESG投資の試金石として眺める価値はあると考えています。