小林製薬が新しい経営陣を発表しました。山根聡社長は退任し、豊田賀一執行役員が社長に昇格します。紅麹を素材にした製品による健康被害が広がるなかで、その責務を問われた社外取締役の顔ぶれも大きく変わります。会長には京セラ出身で日本航空の再建に取り組んだ大田嘉仁氏が就任します。創業家である小林家出身が実権を握る経営から脱皮する姿勢を示していますが、健康被害を引き起こした経営責任が不明のまま、大幅に経営陣を刷新してしまったらすべてが雲散霧消しそう。とりわけ創業家の暴走を見逃した社外取締役の責務を”見逃す”わけにはきません。
新社長は会見せず
新社長に就任する豊田氏はオンラインの記者会見に姿を見せませんでした。健康被害問題の現状と今後の対応について責任ある地位の人物が何も語らずに、3月の定時株主総会で小林製薬の新経営体制が決定しても誰も信用できないでしょう。最大の実力者である小林一雅・前会長が退いたとはいえ、新体制では創業家の小林章浩氏は補償担当の取締役として留任します。
小林一雅前会長は特別顧問として残ります。山根社長は「特別顧問に就任して以降、その是非について社内で継続的に議論がある」と認めながらも、「実際にマーケティングなどについて日々有益なアドバイスをもらえている」と説明しています。経営に直接関わる権限がないとしても、それは形式的なもの。創業家の小林家の威光によって成長してきた小林製薬の経営に今後も小林一雅、章浩両氏の存在が大きく影響するのは間違いません。
山根社長はこの時点で退任する理由として「自分の使命の補償や再発防止などの方向性がある程度見えた」と説明しました。とても方向性が見えたとは思えませんが、後を託された豊田氏はたいへんでしょう。豊田新社長は欧州や米国法人社長を務めるなど海外事業の経歴が長く、現在も執行役員として国際事業を統括しています。日本国内で事件となった紅麹素材による健康被害問題に深く関与していないと思われるため、社長の白羽の矢が立ったのでしょうが、裏返せばこれまで縁が薄かった本社を指導する力がどこまで期待できるのか。
社外取締役もほぼ総入れ替え
社外取締役4人のうち一橋大学名誉教授の伊藤邦雄氏やイー・ウーマン社長の佐々木かをり氏、日本銀行出身の有泉池秋氏の3人は退任します。コマツでコンプライアンスなどを担当した片江善郎氏は留任しますが、その理由がコンプラなどを知見が重要と判断したからだそうです。
代わる社外取締役は5人就任します。弁護士や医療分野の専門家を候補に考えているそうですが、社外取締役は特定分野のコンサルタント集団ではありません。企業統治は、特定の分野で動かすものではありません。幅広い視点と知見をもとに社外取締役として務める企業のあり方を考え、助言するのが社外取締役の責務です。新旧の社外取締役のみなさんはぜひ記者会見を開いて、小林製薬から学ぶ教訓を語ってもらいたいです。