社名に驚きました。「WECARS」。思わずWeworkを連想してしまいました。継承する事業はビッグモーターから買収です。Wework、ビッグモーターそれぞれが突きつけたコンプライアンス、ガバナンスの問題を背負う新会社が「WECARS」と命名するとは!。
事業継承と債務支払いを分離して再スタート
伊藤忠商事は中古車販売大手ビッグモーター(東京都多摩市)から事業を継承したWECARS(ウィーカーズ)を設立したと発表しました。新会社には企業再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)と伊藤忠、伊藤忠エネクスが出資。社長は元伊藤忠執行役員の田中慎二郎氏。買収額は出資と借入金を含め約600億円。販売店の名前も新社名に合わせて変えるそうです。
ビッグモーターの経営再建は事業を継承する「good company」と債務支払いなどを遂行する「bad company」の方式を採用しています。企業再生でたびたび目にする手法です。WECARSに事業を引き渡した旧ビッグモーターはbad companyとなるわけです。
WECARSは資金力、自動車販売の豊富な経験を持つ伊藤忠、企業再生のプロであるJWPが経営に携わりますから、課題である自動車保険金の水増し請求などの不祥事で傷ついたブランドの再建は順調に進むでしょう。伊藤忠グループなどの支援のもとで資金繰りを改善させながら、法令順守など企業風土の刷新、不祥事を再発しないようお客さんからの信頼回復に努めると期待しています。
なぜWECARSを社名に選んだ?
素朴な疑問が湧きます。企業再生のプロたちは、なぜ社名をWECARSを選んだのか。彼らならすぐにWeworkの不祥事が浮かぶはずです。Weworkは2023年11月に経営破綻しました。破綻前から社内のセクハラ、パワハラ、麻薬、そして創業者らの杜撰な経営や不正行為が広く知られていました。
Weworkにはソフトバンクグループの孫正義氏が2017年から投資しており、傘下のビジョンファンドと合わせて100億ドルを注ぎ込んでいるそうです。現在の円換算で1兆5000億円を超えます。結構な金額です。2019年に株式上場する予定でしたが、不正会計や創業者の言動などで上場見送りに。その後もソフトバンクは95億ドルという巨額の救済策を打ち出しています。その会社が経営破綻です。企業再生の専門家なら誰も知っている会社です。
企業は、資金力があっても信頼を失ってしまったら、存続できない良い証明です。ビッグモーターの場合、自動車保険の不正請求、顧客を騙す営業方針がその成長を支えてきました。伊藤忠、JWPは中古車販売の将来性、さらに会社の従業員の雇用を守るために過去を切り離して存続する選択をしました。田中社長は記者会見で「会社は過去の経営や一部の社員の行いによって、信頼を失っている。新会社に関わるすべての人々が最優先すべきはお客様であり、信頼を得ることと、事業として成長することは両立できると信じている」と説明し、過去との絶縁を明言していますが、果たしてそうでしょうか。
継承はビッグモーターの教訓も忘れずに
ビックモーターの不正行為は、企業の信頼を大きく傷つけました。中古販売だけでなく損害保険など金融機関の審査、経営の監視機能と幅広いものです。収益を上げるため、お客が気づかなければ何でもないやって良いと考える利益優先の経営者が多いことを証明しました。損害保険大手の損保ジャパンはその一例に過ぎません。商品リスクを丁寧に説明せず仕組み債を販売した銀行も同じ延長線上にあります。
ビッグモーターも損保ジャパンも「社員の一部」という切り捨てだけで信頼回復することはできません。会社全体に染み込んだコンプライアンス意識の低さを再認識する必要があります。
WECARSは新会社発表の席上、顔を揃えた経営陣らはガッツポーズを構え、新たなスタートへの自信をのぞかせました。過去の不正とは縁を切り、新会社はgood companyとして再び成長軌道を取り戻す意欲が感じられます。
ビッグモーターが残した教訓は、bad companyによる債務支払いなどで消えてしまうものではありません。Wework 、ビッグモーターなど不正行為を働いた企業が信頼をどう回復するか、この努力もWECARSは背負うのです。そんな覚悟はあるのでしょうか。