「北尾吉孝」の素顔は、やはり札束を振り翳した恫喝にあるのでしょうか。「中居正広」性被害を巡るフジ・メディア・ホールディングスの取締役選任案に異論を唱えた大株主のダルトン・インベストメンツが事実上総取っ替えの人事案をまとめましたが、その1人に北尾氏が選ばれました。SBIホールディングスの会長兼社長の立場でありながら、かつてフジテレビの買収問題に関わった経緯もあってフジ・メディアの経営改革に意欲を示しています。不動産事業を分離して本業のメディア・コンテンツ事業の収益性を高めるとともに、フジの優良コンテンツを活用する新会社の設立構想まで明らかにしています。
経営改革に意欲
4月17日、北尾氏が開いた記者会見で、あえて「強い北尾」を演出したのでしょう。朝日新聞によると、「(SBIHD傘下の)レオス・キャピタルワークスがFMH株を5%取得しているが、僕は全く指示していない。社長の藤野英人さんが自分の相場観で買われた。僕はお金は使わないつもりだが、もし(フジ側が)敵対するなら、徹底的に勝負します。反省の念もなく、まともな良識に対して対抗しようというならいつでも受けて立つ。(FMH株を)5%ぐらい買うのはわけないことだ」と語っています。
「敵対するなら、徹底的に勝負します。反省の念もなく、まともな良識に対して対抗しようというならいつても受けて立つ」。驚きはしませんが、聖書に登場する「羊の皮を被った狼」が羊の皮を脱ぎ、ようやく素顔を見た思いです。
野村証券からソフトバンクへ移った1995年から北尾氏を眺めていますから、もう30年過ぎました。時折、ゴジラが口から光線を放つ凄みを感じさせることがありましたが、1999年にソフトバンク・インベストメント(現在のSDIホールディングス)を創業し、業容を広げるに合わせて経営者としての顔を演出する北尾氏を見る場面が当たり前になってきました。
銀行・証券を束ねるトップの立場
そりゃそうです。北尾氏が率いるSBIグループは、ネットを軸に銀行、証券、そして多数の地方銀行を傘下に収める金融グループに拡大しました。三菱、三井住友、みずほのメガバンクが築き上げた巨大財閥にかなわないとはいえ、ネット時代の金融業を創造するリーダーの1人です。
信用を第一を掲げ、多くのしがらみに縛れる金融業の常識に囚われずに、どんどん新分野に挑む覚悟は敬服に値します。
ただ、金融機関として忘れるわけにはいかないことがあります。企業倫理です。どんなに創造的な事業であっても、挑戦的な事業であっても、あるいは社会正義に貢献すると信じても、倫理を放り投げるわけにはいきません。HPには、創業時から「顧客中心主義」の徹底、「公益は私益に繋がる」という理念を掲げています。一時的な利益に目を奪われずに「徳業」を貫くと明記、「人には人徳、企業には社徳」と強調しています。まさにその通りです。
ところが、フジ・メディアの問題にはやや感情的な反応しているようです。北尾氏は、ダルトンがフジHD取締役候補として提案した12人のうちの1人。自身の経営参画については「代表権のない取締役会長は可能だ」とし、その場合は「報酬を受け取るつもりはない」と言い切りますが、報酬を受けるかどうかは問題の外です。ましてフジテレビをまるで悪役に仕立てて、社会正義を示すかの風体は銀行・証券を率いるトップに許されません。
買収攻勢などで巨額の利益獲得を目的にした投資ファンドじゃないのです。フジ・メディアには米投資ファンドのダルトンのほかに旧村上ファンドを創設した村上氏の長女が主導するファンドが大株主として参加しています。
投資ファンドと同列に
北尾氏は、投資ファンドと同列に並んでいる印象です。ここまで言及したい理由は過去の経緯があるのかもしれません。2005年、ライブドア の堀江貴文社長がニッポン放送の株式取得を通じてフジテレビの乗っ取りを画策した際、ホワイトナイト、いわゆる白馬の騎士としてフジテレビを支援した過去があります。今回はフジテレビの性被害問題に関する第三者委員会の調査報告書を読み、「あの時ホワイトナイトをやるべきではなかった」という気持ちだそうです。
企業の乗っ取り屋ではありません。悪役をやっつける快感を楽しんでいるとしたら、経営者の資質そのものが問われます。