高収益企業の代表選手であるキーエンスを評価してみます。事業そのものはセンサーを軸にした自動制御技術を中心に事業を拡大している日本でもトップクラスの優良企業です。Eco*Tenの簡素な評点に異論を持つかもしれませんが、欧米の債券格付け会社を真似て勝手格付けに挑みます。
キーエンスの業績はずば抜けています。制御技術を主軸に担当者が顧客が必要としているニーズを先取りする形で提案して、短時間で製品・技術を納入します。売上高の過半は日本以外ですから、その実力と評価の高さが理解できると思います。決算数字はもう目を見張ります。2022年3月期決算は売上高が前期比40・3%増の7551億円、営業利益は51・1%増の4180億円、純利益は53・8%増の3033億円。利益率は40%を超えます。最近、ちょっと元気を失いましたが、かつえのファナックのようです。工場現場のデファクトスタンダードの地位を固めている証拠です。
社員の働きぶりも日本企業の中でずば抜けています。顧客が必要としている生産技術やアイデアを先取りして提案し、受注したら短時間で納入します。韓国経済を支えるサムスン電子の猛烈さと重なります。当然、年収もずば抜けています。平均1700万円を超え、日本でトップクラスです。工場を持たないファブレス経営を掲げる自動制御機器メーカーとはいえ、製造業でこの高水準を達成するのは脱帽するしかありません。
Eco*Tenの評価はホームページ(HP)に掲載されている情報をもとに採点しました。もちろん、これまでの取材も判断材料に取り込んでいます。評点項目は5項目です。それぞれ評価していみました。
第一項目の透視する力は1・5点。
キーエンスの中田有社長は、日経ビジネスのインタビューで「環境変化は、読もうと思っても不可能です。新型コロナを誰も予想できなかったですし、こうしたことで一喜一憂するのは、あまり意味がないと考えています。同様に中期経営計画もありません。着実にやるべきことを見極めることの方が大事です」と答えています。ここまで明言されると「透視する力」について評価するのは難しいのですが、逆手にとって「キーエンスができること」「できないこと」をしっかりと見極めて地球環境問題に取り組む姿勢を明確にしたと読み取りました。
もう25年以上も昔のことになりますが、勤めていた新聞社で実施した閑居経営度調査でキーエンスは東証上場企業の回答企業ランキングの中で最下位になったことがあります。日本経済の状況が当時と現在で違うので単縦な比較はしたくありませんが、当時は「稼ぐことが生き残る道」と割り切り、当時の環境問題はまずは傍に置いてという姿勢がはっきりしていました。その当時から見れば、HPに掲載された環境やESG、SDGsに対する取り組みは「大人」になっています。数値目標を明示して経営努力によって改善した過程を説明しています。
②構想する力 0・5点
しかし、構想力を問われれば、低評価になります。キーエンスができることを明示し、目標達成に努めることは強調されていますが、キーエンスが事業を継続して存続するために必要な予見が示されていません。1企業がそこまで問われるのかという声が聞こえてきそうですが、やはり世界の最先端を走る企業に期待されるミッションの重さは忘れないで欲しいです。不満です。
③実現する力 2点
第2項目と矛盾すると思えるかもしれませんが、「やると決めたことはやるぞ」という会社です。実現力に疑問はありません。
④変革する力 1・5点
変革についても同じ評価になります。将来への構想を十分に描かずにやるべきことを目の前に提示して実現し、その次のステージに向けて再び疾走するのがキーエンスです。変革する力は期待できます。ただ、どう変革するのかがわからない。ここが不満です。
⑤ファーストペンギンの勇気と決断力 1点
キーエンスという会社がファーストペンギンを目指しているのかどうかはわかりません。中田社長は将来を予測しようと思ってもできないと強調しているわけですから、自ら先取りする姿勢を否定はしてはいませんが、どう先取りするかに挑戦する姿勢はありません。ただ、目の前に見えた課題が自らの成長の阻害になると判断すれば躊躇なく決断するのも予測できます。キーエンスの実行力は日本企業の中でも頭抜けています。低評価にはできませんでした。