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ビッグモーターに見透かされた「意識高い系」以前の日本の金融  

 世界最大の運用資産会社ブラックロックのラリー・フィンク会長兼最高経営責任者の話題を最近、目にします。英国の経済誌「エコノミスト」は7月末、「woke capitalism」の顔として紹介していました。日本語訳では、「意識高い系資本主義」となるのでしょうか。「意識高い」という表現はあまり良い意味で使われていませんが、欧米でも「ちょっと突っ張り過ぎているんじゃないの?」というニュアンスがこめらているようです。

ブラックロック会長に批判が集まる

 フィンク会長は何に対し意識が高いのか。「ESG」です。どの会社や案件に投資するかなど資産運用の基準は地球環境、人権、企業統治などESG・SDGsの多様な視点から判断します。さまざまな場面や機会を通じて自身の考えを説明、強調しており、その発言の影響力を世界の金融市場は無視できません。

 なにしろブラックロックは世界最大の資産運用会社です。年金基金、投資信託、保険会社などの顧客を後ろ盾に巨額投資しており、運用資産額は 9・4兆ドルといわれ、世界の約1万8000社の上場企業が運用先として選ばれているそうです。世界のマネーの流れを変える力を持っているだけに、ブラックロックの運用方針は日本も含めて追随せざるを得ない場面が出てくるのも当然です。

ESGを巡る金融に不信感

 ところが、この「意識高い系資本主義」を信奉するフィンク会長に対する反発が強まっています。米国では共和党が強い州では石油、ガス、石炭など化石燃料を採掘する企業が多いため、脱炭素など地球環境問題を重視するESGに対する反発が強く、フィンク会長の発言が地球環境対策を掲げる民主党との政治対立にうまく利用されているようです。

 その反発による”損失”は無視できません。共和党系知事が就任する州を中心に、ESGを掲げる米欧金融機関を州の財政取引から除外する動きが鮮明化。ブラックロックもテキサスやフロリダ州等で投資資金の引き揚げや州取引からの除外されています。ESG金融のリーダーを自他ともに自認しているフィンク会長は最近、「もうESGとは言わない」と口にしているそうです。

 ブラックロックのフィンク会長に対する反発は、ESGを巡る金融機関への不信感も重なっています。ESGやSDGsを高らに掲げて投融資するものの、実際は通常の投融資とさほど大きく変わらない。地球環境を名目に批判をかわす「グリーンウォッシュ」との声は広がる一方です。

 もっとも、こうした批判が広がり強まるのは、欧米でESG投融資がいろんな分野で実績を積み、その結果が検証され始めているからです。

ビッグモーターは建前と本音の隙をついた

 日本はどうでしょうか。銀行、保険など主力金融機関のホームページを開けばわかりますが、ESG、SDGsに論拠した投融資、審査などを説明するページが続きます。世界でもトップクラスと自負する言葉も並びます。

 ところが、実態はどうでしょうか。直近の事例でみるとすぐにわかります。ビッグモーターと損害保険の不透明なビジネスです。詳細は判明していませんが、メディアで伝えられている情報を見る限り、両者の関係は「持ちつ持たれつ」と批判されても仕方がないかもしれません。車の事故などの修理を多く見積って保険会社に過大請求する一方、中古車販売などで新規保険契約を特定の保険会社へ誘導する。ビッグモーターは収益を膨らませ、損保は契約者数を増やすことができます。

 損するのは保険契約者です。過大請求された修理額は免責分を超えた分だけ保険契約者が支払い、翌年からの年間契約の等級が下がり、この結果年間支払額は増えます。

 ビッグモーターは損保の足元を見透かしていたかのようです。損保業界としてESG、SDGsを基準にビジネスを展開すると強調していても、建前と本音は違うのだとわかっていたのです。だからこそ、不正事案と思える過大請求を見逃す損保の脇の甘さを確信していたのかもしれません。

日本はまだ意識低い系か

 日本の現状を改めてみると、ブラックロックのフィンク会長が「意識高い系」と皮肉られるのが羨ましく思えます。日本の金融機関はどう見ても「意識低い系」に映ってしまします。欧米のESGを巡る批判を「対岸の火事」と眺めるレベルまで日本は達していないのです。

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