2023年4月中旬、フィンランドで出力160万キロワットの原子力発電所が稼働しました。発電能力は世界最大級です。欧州はドイツが脱原発に進んでおり、原発アレルギーが強いと思われがちですが、フランスが原発を発電源の主軸にするなど前向きの国々があります。それでもフィンランドの原発は欧州で15年ぶり。なぜフィンランドで世界最大級の原発が受け入れられたのでしょうか。
フィンランドの電力14%を賄う
フィンランドで新設された原発はオルキルオルト原子力発電所(写真はWikipediaから)の3号機で、同国では5基目になります。全発電能力のうち3分の1を占めており、新稼働する世界最大級の原発は同国の電力需要の14%を賄えるそうです。
フィンランドの原発は「EPR(ヨーロッパ加圧水型原子炉)」と呼ばれ、フランス企業などが施工しています。2005年にフィンランドが初めて建設しました。その特徴は安全設計にあります。原子炉を制御する機能が低下・停止した場合、緊急冷却する装置が4カ所あるほか、メルトダウンした溶け落ちた核燃料を冷却する「コアキャッチャー」と呼ばれる設備も装着されています。
安全設計も日本と異なる
加圧水型は福島第一原発の沸騰水型に比べ、設計や機材が簡素なのでより安全性が高いといわれています。格納容器も航空機が衝突しても耐えられる強度を備えています。現在、日本の原子力規制委員会で審査されている議論を考慮すれば、かなり日本の原発に比べて安心感がある印象です。
フィンランドは日本と同様、資源が乏しい国です。石油や天然ガスに代わるエネルギーとして原子力開発を進めています。といって順調に新増設が進んでいたわけではありません。旧ソ連時代のチェルノブイル原発の事故などで立ち往生もしています。しかし、電力需要を賄う手段として原発を無視するわけにはいかず、今後も新増設の計画が進んでいます。
国民の6割は肯定的
原発をめぐる世論はどうでしょうか。フィンランドエネルギー産業協会が2022年5月に実施した調査によると、全体の60%は原発に対して肯定的だったそうです。1983年に調査を始めて以降、最も高い数字です。否定的な意見は11%でした。 背景には、やはり気候変動があります。CO2排出を抑制する有効的な手段として原発を重視する見方が広がっているのです。ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー危機に拍車がかかったことも見逃せません。
最終処分地も決定済み
見逃せないのはもうひとつ。フィンランドは、2001年5月にオルキルオトを高レベル放射性廃棄物の最終処分予定地に決定しています。建設を開始して、最終処分の事業は始まっています。
日本は1993年から青森県六ヶ所村で核燃料再処理工場を建設していますが、今も完全に操業に至っていません。最終予定地は候補地の選定作業は進んでいますが、いつ決定できるか誰も予想できないのが実情です。福島第一原発事故以降、日本政府と電力業界が掲げ続けた「原発の安全神話」は脆くも崩れ去っています。
国民の理解を得る方策を学ぶ
フィンランドが原発推進するためのインフラストラクチャーや安全設計などで国民の理解を得られる努力をしています。原発を進める上で安全を担保する電力会社の信頼性が欠落したまま、再び原発の新増設に転換した日本政府とは大違いです。計画よりも大幅に遅れたとはいえ、世界最大級の原発稼働を実現したフィンランドの政策を参考に日本の原発政策の欠落した部分、補う政策を改めて確認するチャンスです。