東京・神宮外苑の再開発が進みます。
東京都は2月17日、明治神宮外苑の再開発計画事業を認可し告示しました。再開発の事業主体は三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事の4者。計画によると、神宮球場と秩父宮ラグビー場を再配置します。ラグビー跡地にホテルを併設した野球場を新設。新しいラグビー場は神宮第二球場を解体した跡地に建設します。商業施設が入る高層ビル2棟も建設され、2036年に完成するそうです。
「100年先の未来に」と東京都知事
神宮外苑の再開発計画はこれまでも多くの議論を呼んでいます。東京でも有名な青山という人気エリアにあるイチョウ並木はテレビでも頻繁に紹介され、日本の誰もが知る風景です。再開発に伴い多数の樹木が伐採され、イチョウの木根も切られるため、街並みの風景が一新するほか、イチョウの生育に大きな影響を与えるとの声が高まっています。
国会議員も超党派で「神宮外苑の自然と歴史・文化を守る国会議員連盟」が結成。ユネスコの諮問機関「イコモス」の日本委員会も事業主体が作成した環境影響評価を都の審議会での再審議する求めていました。
東京都の小池百合子知事は2月17日の定例会見で「認可は法令にのっとって適切に行った」と表明。「事業者には先人たちの思いを引き継いでいただき、100年先の未来につなげる街づくりに真摯に取り組んでいただきたいということを申し上げてきた」と注文していますが、その言葉遣いから東京都の責任を回避するニュアンスを感じます。
あの三井が手がけるのに紆余曲折するとは
ここまで紆余曲折したのが不思議です。事業主体に参加する三井不動産は世界各地で再開発事業に取り組み、経験の豊富さでは他を圧倒します。直近でも2022年10月、米ニューヨークのマンハッタン地区で過去最大級のオフィスビル事業を竣工しました。入居はFacebookを運営するメタや世界最大の投資会社ブラックロックを含め80%以上が決まっているというのですから、事業内容の素晴らしさが理解できるはずです。
日本橋では宇宙ビジネス、首都高の撤去
小池知事が「100年先まで」と注文した通り、三井不動産は未来に向けた再開発にも力を注いでいます。三井財閥発祥の地である東京・日本橋ではJAXAとの連携して宇宙ビジネスのスタートアップを手掛けています。
一般社団法人を立ち上げ、三井不動産が保有するビルを交流の場として利用し、宇宙開発ベンチャーや宇宙技術を利用したい企業を支援します。ちなみに地名の由来となっている日本橋は現在、首都高速道路に隠れてしまっていますが、三井不動産の実力者である岩沙弘道さんらは政府と連携して地下トンネルを建設し、かつての日本橋の風景を取り戻す1兆円プロジェクトを進めています。企業の力量が十分にわかるはずです。
再開発とは価値を高めること
不動産会社は土地や建物などの価値をいかに高めるかが仕事です。なにもない更地に建物や交通機関などを創り出し、多くの人と仕事を集め、地域と経済に活力を創造する重要な仕事です。三井不動産は三菱地所、住友不動産など大手の中でも積極的に事業を拡大するとともに、プロジェクトの案件に対する評価も高いことで知られています。
しかし、神宮外苑のプロジェクトはちょっと首を傾げます。有名なイチョウ並木を残すとはいえ、公表している計画から想像できる風景は一新してしまい、より美しくなるとは思えません。神宮外苑前のイチョウ並木は、東京のみならず日本にとっても北海道大学のポプラ並木と同じように国民の財産です。再開発によって青山周辺の不動産価値は上昇するのかもしれませんが、イチョウ並木のすぐ横に高層ビルなど大きな建造物が並ぶ風景は、東京の歴史を感じる風情を一掃するのは間違いありません。首都高速道路に覆われた日本橋がきれいな空の下で再生するのとは大違いです。
過去100年間守ってきた財産は未来に劣らぬ価値
不動産会社は100年後の未来を創造するだけでなのでしょうか。過去100年間を守り続けた財産を大事にするのも仕事だと思います。三井不動産なら、100年間の経験から生まれる知見があるはずです。