東京の再開発の中でも異例の注目を集めている明治神宮外苑。神宮外苑の象徴であるイチョウ並木など自然が残された景観が高層ビルの建設などで大きく変わるため、再開発に対し疑問視する声が広がり、多くの著名人、メディアを交えて再開発事業のあり方が議論されています。「樹木の伐採」の見出しだけが飛び交う時もあってちょっと残念なすれ違いもありますが、生活する街の将来について意見を交換し、明日について考えるのはとても大事だと考えています。
NHKが事業計画書から課題を解き明かす
公共放送として中立性を重視するNHKも首都圏版で取り上げました。NHKが独自に入手した事業計画書をもとに、明治神宮外苑の再開発の課題を解き明かそうとしました。
まずは事業スキームから。明治神宮は社殿と広大な森で構成する内苑、神宮球場やラグビー場などのスポーツ施設がある外苑があります。内苑の維持管理費は、神宮球場などが稼ぐ外苑の収益でまかなっています。野球場、ラグビー場が老朽化し、建て替えが迫られているものの、一緒に解体してしまうと収益をいっぺんに失うことになります。内苑の維持管理費を再開発を開始した後も安定して生み出すため、野球場とラグビー場をそれぞれ場所を変えて建て替えるとともに、事業費全体を賄う商業施設を含む高層ビル群を建設することにしました。
商業フロアなどで再開発事業を全額捻出
NHKが入手した計画書によると、再開発事業費3490億円は、その全額を高層ビルから得られる「保留床処分金」でまかない、自己資金は「0」と記載されています。具体的には、神宮球場やラグビー場の上空の容積率を建設する高層ビルに組み込んで「保留床」と呼ばれるフロアを捻出し、商業フロアとして収益化するわけです。「保留床」で得られる収益は再開発事業費と同じ3490億円。再開発にかかる費用の全額を補てんする仕組みです。
再開発事業主体の代表として三井不動産の鈴木眞吾取締役が番組に出演し、「内苑の緑を守るためには、外苑の施設を活用して、資金を捻出する必要がある。そのためには施設を新しくしなければいけない」と説明しています。景観を悪化させると批判を浴びる高層ビルの建設についても「公的な資金に頼らない形で成立させる計画となっている。われわれが事業を行ってしっかり稼いでいくことも経済的に必要だ」と続けます。
ちなみに明治神宮外苑の再開発主体は明治神宮、伊藤忠商事、日本スポーツ振興センター、三井不動産の4者。それぞれ地権者や施設などを持つ利害関係者です。事業主体の代表は再開発をビジネスとする三井不動産が務めており、再開発に関する説明などで主導しています。ただ、「内苑」を整備するために「外苑」の収益を活用するということなら、明治神宮が自ら説明する場面があっても良いと思いましたが、明治神宮の考えは披露されていません。番組を視聴を終えて明治神宮外苑の再開発の「根っこ」の深さを改めて考えさせられました。
落とし穴は外苑の公共性
再開発事業のスキームとしては真っ当な設計です。公的資金を使わずに事業主体だけで再開発するなら、独自の収益源を確保しなければ「明治神宮の内苑」は維持できません。しかも、三井不動産はビジネスで参画しているわけですから、事業収益を前提に設計するのは当然です。
ただ、落とし穴があります。再開発の対象地域が明治神宮外苑だったことです。 明治天皇、皇后らのご遺徳を永く後世に伝えるため、全国から寄付金、献木、 勤労奉仕などで整備されました。国民の体力の向上や心身の鍛錬の場として国立競技場、野球場などスポーツ施設が建設され、1926年に自然豊かな素晴らしい景観によって日本で初めて風致地区に選ばれています。
苑は街と人を結ぶ縁
通常の再開発地域とは違うのです。再開発事業に対する批判についても伐採の木々を減らすかどうかが主眼ではなく、日本として歴史的空間を継承するかどうかについて三井不動産だけでなく東京都なども含めて説明し、議論を交わす場がもっと必要でした。三井不動産の鈴木取締役は事業スキームの理解しにくい部分を認めながら、「一般の方がわかるように発信していく必要があると考えている」と話しています。
明治神宮の外苑は内苑を維持するための土地ではありません。東京都民のみならず日本の国民にとっても「街と人が楽しむ苑であり、人と人を結ぶ縁」であることを忘れて欲しくないです。