三井住友フィナンシャルグループが脱炭素を目指す国際的な枠組みから脱退しました。地球温暖化やESGなどに対し批判的な米国のトランプ大統領の復権が予想され始めて以来、米国の金融機関はESGやSDGsをテーマにした金融プロジェクトからの撤退が相次いでいましたが、日本でも追随する動きが出てきました。三菱UFJ、みずほFGなどメガバンクに影響するかもしれません。
世界の金融機関130超が参加
三井住友が脱退する国際的な枠組みは「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」。2021年に発足し、参加する金融機関は130を超えるそうです。地球温暖化の主因であるCO2など温室効果ガスの排出量を2050年までゼロとする目標を掲げています。気温上昇に伴う気候変動は、台風、サイクロンの多発や大雨などの災害激化で世界中が体感しているので、環境保護を重視したビジネスの拡大に貢献する金融業界の取り組みとして期待していました。
しかし、米国では3年ほど前から大手金融機関がESGなどをテーマにしたプロジェクトに消極的な姿勢を見せ始め、国際的な枠組みであるNZBAからゴールドマン・サックスやシティグループ、JPモルガン・チェースなどが相次いで脱退を表明していました。
背景には米国の政治的な変化があります。石油・ガス、石炭など資源産業を支持基盤とする共和党の一部から脱炭素の動きは資源投資を抑制すると批判する声が高まり、銀行が化石燃料業界への投融資を制限することが反トラスト法(独占禁止法)に違反するとのではないかとの意見も出ていました。
しかも、民主党のバイデン大統領が進める気候変動対策を否定するトランプ元大統領が復権する可能性が高まり、政権交代を先取りする形でNZBAからの脱退が広がったのです。
トランプ復権が影響
「やっぱりね」。残念ながら、正直な感想です。世界の金融機関は2000年代に入って地球環境問題への取り組みを前面に掲げ、社会的な貢献度をアピールしました。ESG、SDGsの言葉に集約され、「銀行、証券、保険会社は金儲けに血眼になっているわけではない」と胸を張りました。子供じゃありませんから、「本音と建前」ぐらいは理解しています。でも、建前は貫いてほしかった。建前を堅持しなければ、資本主義の権化とも言える金融機関は強欲で動く本音丸出しの企業になってしまいます。
一時期、経営者が口を開けば、触れるキーワードでした。ESG投資は欧米を中心に急増しており、すでに120兆ドルを超える資産規模に拡大しています。しかし、今は人工知能(AI)に取って代わられています。
ESG投資を巡る象徴的な出来事がありました。2023年6月に開催された全米IR協会の年次総会で「RIP ESG」という言葉が飛び交ったそうです。RIPは「Rest in Peace」の略で、「やすらかにお眠りください」の意味です。お葬式などで使われる言葉です。つまり、ESGはもう終わりとの趣旨になるのでしょうか。
ブラックロックが矢面に
世界最大の投資会社ブラックロックはその矢面に立たされたことがあります。ラリー・フィンク最高経営者(CEO)は投資先を選択する基準として最重視しましたが、投資利回りや企業経営の実情にそぐわないとの意見が沸き起こり、ESGを推進する姿勢は米国の政治家からも非難されました。
この動きを考えれば、脱炭素の国際的な枠組みであるNZBAに対する批判が高まり、一転して脱退が増える流れは予想されていました。しかし、ただでさえESG投資で出遅れていた日本が米国を追って脱退することはないでしょう。世界の金融業界で欧米や中国に比べて主力のプレーヤーというわけではないのです。日本の環境経営の姿勢を世界にアピールするチャンスでもあります。三井住友FGにはもう少し粘り腰を見せてほしかったです。