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国連「気候サミット」日本は発言機会与えられず 見透かされた地球環境の本気度

 国連総会に合わせて9月20日に開催した「気候野心サミット」で日本政府は発言する機会が与えられませんでした。日本政府は欧米などに比べて地球温暖化対策で出遅れているとの印象が広がっているため、日本がどんな発言、パフォーマンスを演じるのか注目していたのですが、その舞台すら与えれられませんでした。その舞台裏を見ると、国連のグテレス事務総長は日本の本気度を疑っているようです。

国連事務総長の基準で招待

 このサミットを主導したグテレス事務総長が発する言葉はかなり強烈です。化石燃料から再生可能エネルギーへの移行が数十年遅れていると指摘しており、「化石燃料の既得権益者が強欲を現し、われわれの足を引っ張り、腕をねじ伏せてきた。こうして失った時間を取り戻さなければならない」と強調しています。年末にはUAE(アラブ首長国連邦)のドバイで国連気候変動会議(COP28)が開催されますが、この会議で成果を上げられるかどうか危機感を強めているようです。

 国連の気候野心サミットには34カ国の代表が演説台に立ちました。誰もが演説できるわけではありません。選んだ基準はグテレス事務総長。排出削減に向けて施策や実行力などを評価したそうです。この結果、日本は選ばれませんでした。もっとも、米国、中国、インドも参加していません。世界でCO2を大量に排出している上位グループに属しているということよりも、具体的な排出削減努力を厳しく精査されたのでしょう。

ケニア大統領は世界規模の炭素税を提唱

 演説台に立ったのは海面上昇で国土消失に直面するマーシャル諸島。カブア大統領は「主要な(温室効果ガス)排出国が決断を怠ってきたため、われわれは容赦ない大災害に備えなければならなくなった」と訴えました。直近、アフリカで初めての気候サミットを開催したケニアのルト大統領は「アフリカも発展途上国も(先進国から)施しを求めているのではない」と強調し、アフリカでのサミットでまとめ上げた成果の実現を求めました。石油・ガス、石炭など化石燃料の取引、航空機や船舶の排出ガスなどを指標に炭素税を課す排出権取引制度を創設するのです。制度がもたらす資金は年間、数十億ドルに上るとみられています。

 これまで排出削減に消極的だった国々も積極姿勢に転じています。ブラジルは大統領の交代もあって、同国の排出ガス削減目標を2030年までに05年比で50%以上に引き上げる方針を明らかにしました。タイも30年までの排出削減目標を従来の20%から40%に引き上げました。

 金融業界もかなり踏み込んだ考えを示しています。国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は各国に化石燃料関連の補助金制度の廃止を呼びかけました。補助金制度は2021年に国際公約として段階的に廃止する流れとなりましたが、実際は2022年に過去最高の7兆ドルにまで増加しているそうです。

岸田首相は参加を想定

 毎日新聞によると、日本政府は岸田首相の参加を想定し、訪米前に演説の草稿を用意していたそうです。実際には演説の機会がなかったことについて政府関係者は「スケジュールの調整がつかなかったのではないか」と説明したそうですが、国連筋は「基準を満たさなかった」と明かしたと伝えています。米国もバイデン大統領の出席を見送った代わりにケリー大統領特使(気候変動問題担当)を派遣しましたが、発言機会は与えられませんでした。中国とインドは会合にも参加していません。

 日本政府は、カーボンニュートラルへの出遅れが国際的に批判を浴びていたため、2020年12月に当時の菅首相が「2050カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表し、2050年までに大幅に削減する工程を示しました。努力する姿勢は明快に表明しました。岸田首相も今年2023年は主要7カ国(G7)の議長国を務め、先進国の地球温暖化対策の強化に向けてリーダーシップを取ってきたという自負はあったそうです。

 日本の削減目標と内容がグテレス事務総長の基準とは大きく食い違っていたようです。日本は原子力発電所の新増設や石炭火力の高効率化、水素などCO2を排出しない燃料などを柱にカーボンニュートラルの実現をめざしていますが、グテレス事務総長の基準は事実上、排出ゼロの達成を10年前倒しするとともに、石炭火力も2030年の全廃などを視野に入れています。日本がこれまで表明した政策のままでは、到底実現できる内容ではありません。岸田文雄首相がたとえ演説台に立ったとしても、グテレス事務総長の基準に答えることは不可能でした。

日本はグリーン成長戦略を超える政策を議論

 グテレス事務総長が求める基準は難問です。欧州でさえ電気自動車(EV)の普及時期でドイツなどが異論を唱え始めるなど地球温暖化政策をめぐる足並みは乱れています。米国は化石燃料の開発が主要産業の地位を占め、そう簡単に化石燃料ゼロの道を選ぶとは思えません。インド、中国は原発の増設など取り組み強化を急いでいますが、実際のCO2排出量は世界的にも突出しているのが実情です。

 それでは日本は?岸田首相はグリーントランスフォーメーション(GX)を盛んに公言していますが、これまでの環境政策を焼き直している程度の内容です。しかも、原発の再稼働・新増設、水素の活用など実際に目標通りに達成できるかどうかわからない未知数の政策がその土台に敷かれています。日本が世界の地球環境政策の中でどの程度の立ち位置をめざすのか。国連のグテレス事務総長の視線だけでなく日本の未来を考えて、もっと踏み込んで議論する時期を迎えています。

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