山形大学の渡辺昌規教授が精米機最大手のサタケ(広島県東広島市)と組み、米ぬかから代替肉を製造することに成功したと発表しました。渡辺教授は長年、米からタンパク質を抽出する研究を続けており、代替肉の製造技術は成果の賜物でしょうが、パートナーのサタケも自社技術を活用して米の可能性に取り組むユニークな会社です。米は日本の主要農作物でありながら、稲作農家の経営は厳しさを増しています。代替肉は温暖化ガスの一つとされる牛のゲップの削減、食糧危機問題などを解決する素材として注目されており、今後の製品化に期待したいです。
脱脂米ぬかを原料にタンパク質
山形大学の渡辺教授の発表によると、米ぬかから油を抽出した際に発生する副産物である「脱脂米ぬか」を素材に、たんぱく質を回収する技術を確立したそうです。代替肉は植物由来のタンパク質を使い、本物の肉とほぼ同じ食感を得られ、米国などでは肥満防止や菜食主義の広がりを受けて人気を集めています。
米国では代替肉の事業化が始まっており、ベンチャー企業としてビヨンドミートが2019年に米ナスダックに上場し、代替肉の普及とともに有力な投資先として期待もされています。渡辺教授も記者会見で2年後にベンチャー企業を設立して今回の研究成果を事業化する意欲を示しています。
米の活用は農家経営、新規開拓などに貢献
今回の注目点は新しい需要開拓に悩む米を活用することです。代替肉の素材となる「脱脂米ぬか」は、米油を生産する工程で原料の8割以上が「脱脂米ぬか」として残るそうで、これまでは大半が廃棄されていたそうです。米飯はかつての主食の座を降り、需要の低迷による在庫や米価の低迷に悩んでいます。これに伴い稲作農家の収益は苦しく、将来の後継者不足も懸念されています。
米を使った代替肉の製造が軌道にのれば、原料は日本国内で調達できるうえ、牛や豚に代わるタンパク源として稲作農家の新たな販売先が加わり、農家経営を反転させるきっかけになります。しかも、日本の牛や豚の畜産業は飼料の多くを輸入に頼っているため、牛や豚などに代わるタンパク源が確保できれば、輸入飼料の抑制にもつながるかもしれません。日本にとっては伸び悩む食料自給率の回復に加え、牛のゲップを減らして温暖化ガスの抑制効果も期待できます。
山形大とサタケ、地味ですが日本の底力を示す
山形大学の共同研究先であるサタケは日本はもちろん、世界でも精米機のトップメーカーとして米関連の技術開発に長年取り組んでいます。無洗米技術をはじめ米の栄養分を強化した商品開発、農薬を減少させる栽培法に対応した米選別機などを世に送り出しています。自動車や電機など派手な市場と違い、安全においしく食べられるのが当たり前と思われがちの精米機メーカーなので知名度は今ひとつが、山形大の渡辺教授はサタケ本社のある東広島市の広島大学で研究生活を送っているので、その”地縁”もあって今回の成果を生み出したのかもしれません。
代替肉は地球温暖化を防止するための一策として世界でも研究開発が熱心に進められているテーマです。日本から山形大学とサタケというタッグが世界の舞台に躍り出て活躍する。日本ならではの稲作、精米技術がその飛躍力の源となるだけに、日本の底力に改めて確認できた思いです。