日本生命が「ESG投融資」を改め、核兵器を製造する企業に対して投融資を禁止することにしました。すでに第一生命が禁止しており、驚く方針ではありません。日本のESG投融資は世界の金融機関に比べて出遅れており、ようやく体裁が整い始めた段階。日本のESG投融資の実効性がようやく問われる。これが実態ではないでしょうか。
日本生命は最高評価の5つ星も
日本生命に限らず、金融機関は投融資先を選ぶ基準として環境や社会に配慮し、企業統治が適切に実行できているかを判定して決めています。いわゆる「ESG投融資」と呼ばれています。ホームページをチェックすれば、どの金融機関にも記載されています。いずれもESGに対する姿勢を明確に説明し、国際的な基準に符合する体制を敷いていると強調しています。
とりわけ日本生命は日本でトップクラスの機関投資家。ESGに関連した国際審査や基準を数多く満たしており、先陣を切る地位にあります。例えば世界の5000を超える投資機関が参加するPRI(国連責任投資原則)は今年2023年10月に東京で年次カンファレンスを開催しますが、日本生命はリードス ポンサーに選定されました。このカンファレンスはESG投資に関連する世界最大級のイベントだそうで、保険会社がリードスポンサーとして選ばれたのは世界の機関投資の中でも初めてだそうです。日本生命は直近の PRI の年次評価で、複数分野で最高評価の「5 つ星」を獲得していると胸を張ります。
日本の国際的な評価は低い
ホームページの内容を鵜呑みにするわけにはいきません。毎日新聞8月10日付によると、国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の中心団体である「PAX(パックス)」(本部オランダ)がまとめた世界の金融機関の評価リポートでは、日本の評価は高くないそうです。直近の評価リポートでは、りそなホールディングスが日本の金融機関として初めて評価ランクに入ったものの、一定程度評価できるというレベルです。
実際、多くの金融機関のホームページに掲載されるESG関連の考え方は、紋切りの文章でほとんどが説明されます。投融資は企業との秘密条項もあるのですべてを公表するわけにはいかないことは承知しています。しかし、具体的な事例を使って説明しなければ、その金融機関がどの程度の本気度で取り組んでいるのかがわかりません。
発表文は「ESG投融資の高度化」だけ
今回の日本生命の核兵器製造会社に関する投融資禁止について発表文を見てみます。8月7日は発表した資料の表題は「ESG投融資の高度化について」。核兵器製造会社に関することは一文も見当たりません。新聞などのメディアが「高度化の内容」について報じているので、核兵器やたばこなどの製造会社への投融資禁止を示した方針であることがわかりました。まさか新聞などを読めばわかると考えたわけではないでしょう。ESGで欠かせない大事なことは自ら語ることです。
なぜ日本生命は詳しく説明しなかったのでしょうか。ホームページをみても、調べ方が稚拙だったかもしれませんが、核兵器などに関する説明は見つけられませんでした。ESGの原則は具体的な実践です。「学校の廊下は走らない」と書かれていても、子供は走ります。公明正大にお金を投融資しますと表明しても、それは保険金を支払う利用者からみれば当たり前のことです。生命保険会社のお金じゃありません。新聞、テレビが伝える金融機関のニュースをちょっと思い出すだけで、不信感が募ってもおかしくありません。「どう使っているのか、どう使おうとしているのか」。こうした説明がESG投融資で最優先されます。
核兵器の製造をどう線引きするか
さらに難問なのは核兵器を製造する会社に対し投融資しないと表明しても、その選別は不明です。核兵器そのものを組み立てるメーカーなのか、部品も含めるのか。核兵器に使われる半導体まで対象になるのか。もしそうなら、投融資する先はかなり制限されます。どこで線引きするのか。日本生命、第一生命など金融機関は説明しなければいけません。担当者が阿吽の呼吸で決めるとしたら、とてもESGとはいえません。
日本の金融機関のESGはようやく一歩踏み出し、目の前にある課題と実践に挑む段階に差し掛かった程度なのかもしれません。
日本生命の「ESG投融資の高度化」の発表文は以下のアドレスからご参照ください。