新年度が始まる4月。東証の上場企業が相次いで新しい経営計画を発表しています。これからの3年後、5年後の道筋を提示して自社の株式、投資計画に魅力を感じてもらう狙いですから計画内容はもちろん右肩上がり。増収増益への明るい成長への道筋が示されています。
経営計画はカタカナと英語ばかり
東証のTDnet(適時開示情報閲覧ネット)に掲載された経営計画を見てみました。結構、意外にも難解です。明るい未来をイメージするまでに苦労します。専門用語のみならず説明文に英語とカタカナが多用され、当該企業の事業内容に詳しい人なら理解できるのでしょうが、初見の人はたじろぐはず。
もっとも、日常生活で使う日本語自体がカタカナと英語が飛び交っている時代です。車や人気タレントの名称はもう昭和の頃からカタカナ。日本語にすれば意図が強烈だからとカタカナに変換する流れもすっかり定着しています。失業対策がハローワーク、中高生らが家族などを介護することをヤングケアラー、評判が悪かった国民総背番号制はマイナンバーカードに。40歳前後もアラフォーと呼べば、お互い角が立たない。
株式など投資は遊び心ではできない
しかし、株式投資は対象企業の事業内容を十分に理解して決定するものです。100円ショップで「まあいっか」と遊び心でおもちゃの「100万円紙幣」を買うのとは違います。
ビットコインなど暗号資産は、デジタル技術の粋を集めたブロックチェーンで信用裏付けされているからと人気を集めましたが、大手取引所のFTXトレーディングの経営破綻は米国の金融不安を招いています。「最先端のビジネスはよくわからないのは当たり前。少数の人しか理解できないから、今がビジネスチャンス」というセールストークがあるそうですが、まさか上場企業が真似するわけはありません。
難解な経営計画は暗号か謎解きのよう
予想外に難解な新しい経営計画を前に「この会社の株主になりたい」と考えたら、どう読み解けばよいのでしょうか。カタカナと英語はまるで暗号か謎解きのよう。開き直るしかない。eスポーツを楽しもう。専用ゴーグルは持ち合わせていませんが、頭の中で仮想空間ならぬ仮想企業経営をイメージするしかない」。eスポーツ感覚で直近に発表された経営計画をみてみました。
まずは大日本印刷。今はDNPで知られ、社名を漢字読みする人はいないかも。かつての印刷会社のイメージは雲散霧消。文字や映像をデジタルに変換して事業を創造しています。成長分野のタマはまだあります。印刷技術を応用してリチウムイオン電池用バッテリーパウチ、ディスプレイ用光学フィルム、有機ELディスプレイ製造用メタルマスクなどで稼いでいます。
事業の柱はPrinting & Information。「デジタルとリアルを安全に、シームレスにつなぎ情報社会に貢献する」をDNPのコアバリューと明記します。
成長領域は「知とコミュニケーション」「食とヘルスケア」「住まいとモビリティ」「環境とエネルギー」の4つ。領域設定が広すぎて、DNPとどう結びつくのかわかりません。特に注力するのは「IoT・次世代通信」「データ流通」「モビリティ」「環境」だそうで、カタカナがだんだん増えてきますが、さすがに祖業は日本語の印刷業。日本語を大事に使ってくれています。
大日本印刷は2月に発表した新経営計画の骨子をもとに5月に改めて新経営計画を公表します。骨子は企業経営の血脈ともいえる財務がきめ細かく説明されており、印刷業から構造転換している最中の企業経営の苦労が浮き彫りになります。骨子だけをみれば、会社は盤石だから次の未来へ思い切って飛翔するのだという覚悟がみえてきます。
大日本印刷の新経営計画の骨子はこちらから
次は日本郵船。経営戦略の全体像は「ABCDE-X」と説明します。早速、???の連続です。
Aはambidexterity、Bはbusiness transformation Cはcorporate transformationDはdigital transformation Eはenergy transformation、と意味です。順番に和訳すると、「両利きの経営」「事業変革」「デジタルトランスフォーメーション」「人材・組織・グループ経営変革」「エネルギートランスフォーメーション」。
デジタルとエネルギーはもう日本語も英語も同じですね。両利きは進化と深化の言葉を合わせ、両にらみで頑張る意思を強調したいようですが、意図がうまく伝わっているのかどうか。とにかく、うまくABCDEと並ぶように考えたと感心するだけで、計画全体もイメージが湧きにくいかな。
日本郵船の経営計画はこちらから
極め付けはIT企業。東京通信はなかなか手強い。事業内容は インターネットを利用したメディア・プラットフォーム事業 ・ インターネット広告ですから、仕方がないとは思いますが、事業創造力として「『楽しむ – Enjoy -』『繋げる – Connect -』『体験する – Experience – 』をテーマに事業創造力を活かして、社会に大きなポジティブ・インパクトを与える」と説明します。個別の事業になると、漢字読みがほとんどありません。事業名も馴染みがなく、なんとなく具体的な内容を想像しながらイメージを描きます。
次に狙う事業分野はヘルスケア、メタバースNFT、推し活、デジタルサイネージなどと続き、よく目にするカタカナが並ぶので「なんかすごいかも」と納得しそうになりますが、何がどうなるのかがさっぱりわかりません。
現代人は毎日スマホを触る生活ですから、ゲームやアプリなど介してどう稼ぐのか。経営計画そのものがゲームですね。
東京通信の経営計画はこちらから
逆に日本語の使い方に驚いたのがEnjin。は車名は英語ですが、経営計画は日本語でていねいに説明しています。中小企業や医療機関のPRサービスを支援する事業が主力です。だからでしょうか、計画の説明文がわかりやすい。カタカナや英語が少ない。順調に成長しているのですが、自社の明るい材料だけでなく課題として、社会人経験の少ない社員が増加 、教育が行き届かずスキルが低下 、離脱率が増加と指摘しています。さすがPR支援サービス会社。自社の問題点を自ら公表する会社はなんとなく信用できる気がします。相手に伝わるツボを押さえています。
経営計画を説明するイラストやグラフも字数が少なく、とても見やすい。実際の経営は取材したことがないのでなんともコメントできませんが、経営計画を見る限りは好印象を受けます。
Enjinの経営計画はこちらから
以上のように経営計画を駆け足で拝見しましたが、それなりに楽しいですね。これもアリかな。