日本にようやく秋が訪れて来ました。2024年の夏は気温35度を超える猛暑日が北海道でも当たり前のように何ヶ月も続き、春夏秋冬を満喫できる日本の四季のリズムは完全に崩れてしまったようでした。もっとも、猛暑の後の秋は短期間で終わるのが最近の常。そんな季節感が寂しいというか、地球温暖化による気候変動の恐怖を実感します。ところが、政治の世界では気候変動が与える日常生活の影響が大きな議論になりません。不思議です。
最大の関心事は政治改革とはいえ・・・
年内に解散確実と予想していた衆院選挙が10月27日に投開票されます。自民党総裁選の時、早期解散はしないと表明していた石破氏は首相就任後、手のひら返しですぐに衆院解散。助走期間がないだけに、選挙は短期決戦です。勝負の分かれ目は自民党の裏金など政治改革などが主戦場だけに、小難しい理屈が並ぶ気候変動などは票にならない。政界の常識です。
しかし、自然災害の怖さは国民全員が共有しています。1月1日の元日、能登半島は大地震に遭い、9月にも豪雨に襲われました。街や周辺の山や川が大きく傷つき、その復興・再建を願っています。能登半島だけではありません。日本全国、そして世界を見渡しても異常気象が続き、考えられない豪雨やハリケーンが都市を襲っています。
災害の被害額は拡大するばかり
国際的な学者グループが8月に発表した調査によると、山火事が発生しやすい確率は、カナダで3倍、アマゾンで20倍以上も高くなっているそうです。大規模な山火事を世界全体でみると、2003年から2023年の20年間で2倍以上も増えているとのリポートもあります。地球温暖化による気候変動の影響は確実に拡大しています。
カナダに限ってみても、2023年に山火事などで発生したCO2の排出量は、世界の航空会社が排出した量の4倍に相当するとの試算もあります。地球温暖化が引き金になって発生した山火事がさらに地球温暖化を加速させる悪循環が始まっているかのようです。
地球温暖化を加速するCO2の排出といえば、石油・ガスなどによる燃焼、言い換えれば自動車や鉄鋼などの産業活動、日常生活からの排出抑制が注目されますが、山火事など気候変動による災害被害は予想以上に拡大しています。再保険大手のスイスREのレポートによると、2023年の気候関連の災害額は米国のGDPの約0・4%に相当するそうです。米国のGDPは26兆ドルですから、1000億ドル、日本円で15兆円程度にのぼります。
災害防止に投資すれば、最終的な被害額を抑制できる
災害の被害額は山火事など目に見える災害だけで収まりません。特定地域で災害が繰り返されると、土地などの資産価値は下がり、仮に資産として保有しても保険料が高騰し、負担が重くなります。直近の地価調査で能登半島の地価が大幅に下落したのが一例です。住民はその地域から離れ、地域経済はさらに衰退します。地元企業の事業活動に大きな打撃を与え、地域のGDPを低下させる誘因となります。
災害が発生してから対策を拡大するよりも、災害を防ぐための施策の方が効果的だそうです。スイスのREによると、災害防止に1ドルを投資すると、将来の気候災害を回避できる可能性が高まり、結果として11ドルを節約できると試算しています。試算根拠がよく分かりませんが、政府が決断すべき政策の方向性を示しています。山崩れや地震の対策としてハードウエアを拡充するだけでなく、CO2排出抑制など気候変動リスクを低減する新たな施策を展開することが必要なのです。
日本の安全保障は有事だけじゃない
しかし、自民党や立憲民主党などが衆院選で掲げた公約を見ると、気候変動の話題はカケラもありません。地球温暖化の主因であるCO2の排出抑制に効果があるとする原子力発電所を再稼働するかどうかぐらいでしょうか。電気自動車(EV)の普及に向けたインフラ整備、石炭火力発電所の行末などもう少し踏み込んだ議論があっても良いんじゃないですか。日本国民の安全保障は、東アジアの有事だけではありません。