厚い壁をぶち破るブレイクスルーは、やはり常識に縛られないアイデアとパワーが生み出すようです。沖縄県の大学発ベンチャー企業、EF Polymerは100%自然由来の原料を活用する高い吸水力を持つポリマーを使い、農作に適していない荒れた土壌を改良する製品を量産化し、注目を浴びています。植物などが原料となるため、土壌を痛める心配もなく、収穫される野菜なども安心して食べられます。名古屋大や京都大などからもバイオテクノロジーを活用した農業関連ベンチャーが生まれており、地球環境問題の壁をぶち破る挑戦が日本の新たな力になるのでしょうか。
EF Polymerの創業者であるナラヤン・ラル・ガルジャールさんは2019年、自身のアイデアが沖縄科学技術大学院大学のスタートアップ・アクセラレーター・プログラムへの採択をきっかけに来日しました。現在25歳。同社が製造する超吸水性ポリマーはオレンジの皮など果物の食べられない部分を原料に製造しているため、土壌に混ぜても後で分解する性質があります。干ばつや荒地などの土壌改良に使われても、農作物の安全性を貶めることなく、農業の生産性を高めることに寄与できるとしています。
創業者はインドの若者
ナラヤン・ラル・ガルジャールさんは、創業から3年で100トンを超えるポリマーを販売し、世界の1万人を上回る農家にポリマーを供給していると話しています。植物由来のポリマーはその安全性から農業以外でも生理用品やオムツ、アイスパック、化粧品などで応用する計画だそうです。
植物由来の生分解性の特徴を活かせば、収穫した農作物から出てくる廃棄物を再利用できる資源循環型の経営モデルの可能性も期待できます。今後、米国、インド、日本などの市場を中心にポリマーを販売するそうですから、世界各地でユニークな製品力が発揮される日も近いのでしょう。
土壌改良のベンチャーが続々
名古屋大学発のスタートアップとして発足したのがTOWING(トーイング)。短期間で農地を肥沃にする人工土壌を開発しています。通常、畑で3年から5年の期間が必要な土づくりをわずか1か月でできるそうです。植物の炭などのバイオ炭(多孔体)に微生物を付加し有機質肥料を混ぜ合わせた製品を「宙炭(そらたん)」と呼んでいます。2024年には海外でも発売する計画です。
京都大学発はサンリット・シードリングス(京都市)が注目株。ゲノム解析を通じて土壌の生態系を調べ、植物の生育を支援する「コア微生物」を農業資材として活用する考え方を企業化しました。植物と共生する微生物を使うので、化学肥料の使用量が減るそうです。岡山県で実用化した例によると、米の収量が1・8倍に増えたそうです。強化苗の開発にも応用します。強化苗とは2つの植物の特性を生かして病気に強く、収量を増やす技術を施した苗のことです。苗を植える地域に合わせて生育させれば、収量増だけでなく生産コストの削減も期待できます。
産学官の反省からリスクを取る姿勢に
大学発ベンチャーは1980年代から「産学官」を合言葉に起業化が奨励されてきました。実際に事業としてスタートしても、独創的なアイデアを活かす資本力や人材が足りず頓挫する例が多く、日本では「大学発ベンチャー」は掛け声倒れに終始していました。
大学発ベンチャーは、最近はスタートアップと名称を改めて沈滞する日本経済を活性化する役割を期待されています。過去は日本人の学生が起業化する例がほとんどでしたが、沖縄のEFポリマーのようにインドなど海外からの優秀な人材が創業者として誕生しています。起業するテーマも地球環境などがメインに。土壌や水資源の改良技術は、もともと日本が得意とする分野でした。
世界から独創的なアイデアを持った人材が日本で起業化し、ベンチャー企業として成功すれば、日本の他の企業にも良い刺激を与えます。ベンチャー企業、言い換えればスタートアップする事業家の支援体制も官のみならず銀行など民の考え方も変わり、事業リスクを取る姿勢に転じています。歩みは着実に前進しています。期待したいです。