金融機関のESGが根本から問われています。
千葉銀のATM規制と仕組み債
千葉銀行。高齢者を狙った振り込め詐欺による被害を防止するため、70歳以上を対象に振り込み、引き出しそれぞれを制限しています。対象条件は振り込みが過去3年間履歴がない、引き出しも過去1年間に20万円超の実績がない口座保有者。1日の振り込み・引き出しの金額は20万円に制限されています。通常は振り込みが200万円から、引き出しは50万円が上限に設定されていますから、使い勝手はだいぶ悪くなりますが、万が一の場合に被害額は抑えられます。2017年から実施しており、70歳以上の高齢者を詐欺から守る姿勢をいち早く打ち出した金融機関の一つです。
ホームページでは「千葉県警察本部指導のもと、ちばぎんでは、お客さまの大切なご預金をお守りするために、以下のとおりATMでのキャッシュカードによるお振込み・お引出しを一部制限させていただいております」と強調しています。
ところが、高齢者に対してはもう別の顔があったようです。千葉銀行が6月28日に開催した定時株主総会では「仕組み債」について株主から質問が相次ぎました。金融庁は株主総会のほぼ1週間前の6月23日、販売する客の投資経験の考慮せず、さらに商品のリスク説明を十分せずに仕組み債を販売したとして、千葉銀行と傘下のちばぎん証券、提携先の武蔵野銀行の3社に業務改善命令を出していたのです。
仕組み債は高齢者など初心者には無理
仕組み債とは先物取引などのデリバティブ(金融派生商品)を組み込んだ債券で、利益を手にする仕組みが複雑な投資商品です。通常の債券より高い利回りが期待できるものの、連動対象の変動によって元本を大きく損なうリスクがあります。仕組みが複雑で高齢者など投資初心者には相応しくない商品として知られていました。ATMの制限などでいち早く高齢者の詐欺防止に取り組んでいた千葉銀が、高齢者など投資初心者には無理といわれていた仕組み債を販売していたのには率直に驚きました。地銀経営は厳しさを増していたので、背に腹は変えられないと割り切ったのでしょう。
当然、期待通りの配当を得られなかった個人投資家から不満が生まれます。新聞などによると、株主総会には70歳を超える高齢者の姿もあり、「投資知識の少ない高齢者らから搾取するような行為は許されない」「ていねいな説明がなかった」など不信感を話していたそうです。70歳を超えた株主は「経営陣は『個別の案件は答えられない』『善処します』などと国会答弁のように繰り返すばかり。今後どのように業務改善するか気になったが、納得できる回答はなかった」と話していました。千葉銀の例は氷山の一角とみて良いのでしょうか。
損保はビッグモーターに価格調整
銀行と並ぶ損害保険も信用が怪しくなりました。大手4社が金融庁から報告徴求命令を受けました。東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友会場火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の4社で、企業向け保険の入札で事前に価格調整したと疑われる事例が多発しているからです。価格調整した保険契約の相手はJR東日本、東急、京成電鉄、西武系ホテルなど多岐にわたっています。金融庁は価格調整が過去から続いていた可能性が高いと判断しており、全容が明らかになれば独占禁止法に違反する”談合”と認定する可能性もあります。
ビッグモーターによる自動車保険の不正請求が社会問題化している時期です。損害保険会社の業務に対する信用はさらに地に落ちるでしょう。ビッグモーターの不正請求はかなり悪質ですが、現在明らかになっている事実を見る限り、損保ジャパンなど多数の出向者を派遣しながら不正を見逃した損害保険会社にも落ち度あったといわざるを得ません。
金融機関のESGの重要性を改めて強調する必要はないでしょう。金融機関は日本経済の血流を支える役割です。硬貨や紙幣は単なるモノですが、そこに信用が裏付けられているから価値が備わります。お金の価値の信用を損なわないよう信用をさらに上書きするのが金融機関の宿命であり、当たり前の日常業務です。
原点に立ち返って真摯に説明を
どこの金融機関のホームページでも良いですから、ESGやSDGsの項目を覗いて見てください。積極的に取り組み、その精神を堅持し、実践することを謳っています。名誉を挽回できるかどうかはわかりませんが、銀行も損保もESGやSDGsの原点に立ち返って、真摯に説明することを願っています。