経済成長と資源保護の共存は可能か
事実、現地の生活は厳しいものです。当時、国民で最も人気の高かった料理は、バナナにサバ缶のサバを載せ、ココナッツミルクをかけて食べるものです。スーパーに行くと、サバ缶が商品棚を占めています。ずらりと並ぶ缶詰は壮観です。個人的にいずれも好きな食材なので、地元の皆さんの気持ちはよく理解できるのですが、栄養面で偏りがあるため、心臓など循環器系の健康被害を引き起こすことで問題視されていました。
国民の食生活を豊かにして健康を維持するためにも、経済成長は不可欠でした。日本政府や商社、紙パ企業の胸の内は「森林伐採を反対している余裕はないだろう」と察しました。しかし、パプア・ニューギニア国民による抗議デモは、あちこちで見かけました。
その土地にある資源が誰のものか。1990年の湾岸戦争など世界史をちょっと振り返るだけでわかる通り、戦争を引き起こし、多数の命が失われるたいへん恐ろしいテーマです。戦争に至らないまでも、資源開発は国、地元政府、住民らの損得が複雑に錯綜する権益争いを多発し、結果的には国の力で資源開発が一方的に進む事例が数えきれません。
資源開発は先住民の権益を犯すことも
まして、先住民の立場になれば、さらに弱い。資源大国のオーストラリアでは1990年代から先住民のアボリジニ の人々が多くの裁判を通じて「祖先から受け継いだ土地」を守り、抵抗し続ける提訴が相次ぎ、敗訴が続いたこともあって政府や企業はその姿勢を修正しています。
米国が石油生産量でサウジアラビアを抜く原動力となったシェールオイル開発も同じです。先住民のネイティブアメリカンらの土地を乱開発して、多くの環境被害を引き起こしました。地権、開発計画などを軸にした裁判が続いています。国を支配する多数派が少数派の先住民の既得権を力で押し切る例は世界各地で発生しています。
ゴールデンカムイを読んでみてください
日本も例外ではありません。北海道に日本人よりも先に住んでいたアイヌの土地を屯田兵らが開発し、アイヌの人々は事実上、強制移住を求められました。今人気の漫画「ゴールデンカムイ」を読んでください。北海道で実際に起こったゴールドラッシュを引き金にアイヌ、和人、ロシア系先住民らが登場し、北海道の自然が先住民の意図せざる方向で破壊されていく歴史を物語っています。
米国のみならず世界の先住民問題はG7のコミュニケで指摘している通り、地球環境を保護しながら全ての人権に配慮して進んでいく方向です。日本の場合、アイヌを土人と表現した北海道旧土人法が明治に施行してから、廃止されたのは1997年です。法律が廃止されたからといって、過去の差別や窮状がすぐに回復されるわけではありません。アイヌの人口は今2万人を切り、人口1億2000万人の日本全体に比べればわずかです。
アイヌの復権を見落とすことは、世界の潮流を見誤る
しかし、アイヌの人権回復を見落とすことは、自らの歴史に目を瞑ると同時に世界の先住民問題を無視することと同じです。世界各地で活躍する日本の企業が世界で通用しない常識で働けば、ESG・SDGsはじめ多くの視点から批判を浴び、企業活動に大きな損失を招くのは必至。
G7の環境相会議など国際会議は建前と本音が錯綜するのが本質ですが、見落とすと企業活動に大きな影を落とす重要なテーマも押さえているのです。
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