ESGは今や、経営計画にとって欠かせないキーワード。東証に上場する企業の経営計画を覗けば、ESG、SDGs、あるいはサスティナビリティという文字が飛び交っています。高度経済成長期から2000年代まで、企業経営は高い収益力を維持すれば、企業の評価は高まり、株価は上昇してきました。しかし、この評価軸は大きく変わり始めています。社会が企業の存在、その存続を認めるのか。ESGやSDGsの視点で評価される時代の到来は、新しい経営の試行錯誤を求めています。
気候変動対策が求める技術がどう経済を創造するか
このシリーズでは技術開発力に焦点を当て、気温上昇など気候変動対策の求めに応じながら、企業が新たな成長の道を切り拓く経営戦略について考えてみます。最先端の技術開発が地球が直面する課題を解決し、経済も発展するシンクロナイズ(同期性)する。「こんなうまい話があるのかどうか」。誰でも疑問に感じるはず。
様々な事例をシリーズで追ってみます。
ホンダのCVCCエンジンを思い浮かべてください。1970年代、世界で最も厳しい排ガス規制といわれた米国のマスキー法を初めてクリアしたCVCCエンジンは、ホンダを二輪車バイクメーカーから四輪車の「世界のホンダ」へ躍進させました。ホンダそのものも環境を軸に変革に挑む経営へ転身します。ESG・SDGsという新しい潮流に乗って変身する企業はかならずあります。さまざま事例を追ってみます。
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2030年度にはマクセル の大黒柱に
電池大手のマクセルが大容量の全固体電池を世界で初めて量産します。2023年夏から工場の自動化ラインで使用する産業用ロボット向けに生産を始め、その後はウエアラブル端末や医療機器など幅広い用途に向けて固体電池を開発していく計画です。すでにサンプル出荷しており、2030年度には全固体電池で300億円程度をめざすそうです。マクセル の売上高が1200億円規模ですから、全固体電池の売り上げが経営の大黒柱になるのは間違いないでしょう。
全固体電池が一躍、脚光を浴びるきっかけは電気自動車(EV)。気候変動対策の主軸として欧州などがEVへの全面切り替えを宣言。これに伴いガソリンやディーゼルを利用する内燃機関のエンジン車の将来は危ぶまれ、ガソリンに代わってEVの駆動力を生み出す電池の開発が一気に注目を集めました。
リチウムイオン電池の課題をクリア
EV向け電池は、長期間の走行に耐える蓄電機能のほか、高温や低温といった厳しい気候変化、激しい振動など過酷な条件下でも故障しない耐久性が求められます。全固体電池は、EVに求められる機能や要求に応える水準にあるとして期待されています。
現在のEV用の電池は繰り返し充電できるリチウムイオン電池が主力。電池としては画期的な技術で、日本の研究開発者がノーベル化学賞を受賞したことからわかると思います。スマホやパソコンなど身近な製品に多く採用されているので、その利便性を十分に体感しているはずです。
ただ、残念ながら課題が多く、自動車や産業機械などの電動化普及の足かせとなっています。リチウムは採掘できる国や地域が限られ、希少資源であるため、電池の生産コストはどうしても高価になってしまいます。さらにリチウムイオン電池の電解質は液体であるため、低温ではイオンの動きが鈍くなり、高温になると電解液が蒸発してしまう恐れがあります。電池としての電圧が不安定になりやすいため、砂漠や酷寒地を走る自動車にとって走行不能に陥る可能性が出てしまいます。
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