ESGとSDGsをどこ見たかを思い出してみてください。こんなつまらない質問を思いついたのは、最近見かける頻度が限られてきた印象を強く感じるからです。2022年に入ってロシアのウクライナ侵攻など世界を混乱に追い込む出来事が相次ぎ、マスメディアのニュースヘッドラインからESG・SDGsの文字が失われてしまいました。目にする時はほとんどの場合、企業PRなど営業色の濃い記事やイベントのお知らせぐらいになってしまいました。
目にする機会はPRやイベントぐらい
振り返ると、直近では2020年9月から1年間がピークだったのでしょうか。菅首相が誕生し、目の前にある喫緊の課題は日本経済の再生でした。しかし、国内問題ばかりが注目を集めてしまえば、ただでさえ官邸や霞ヶ関を牛耳る影の実力者といわれた菅首相の器量の狭さだけが目立ちます。ロシアによるウクライナ侵攻があるなんて誰も予想できない時期でした。欧米を中心に世界経済を変える枠組みとして唱えられているカーボンニュートラルが新政権の看板政策のひとつに選ばれました。
直近のピークは菅首相誕生から1年間
2020年10月26日、菅首相は就任後初の所信表明演説で成長戦略の柱に「経済と環境の好循環」を掲げ、グリーン社会の実現に最大限注力していくと強調します。2050年までに二酸化炭素など温室効果ガスの排出と削減で差し引きゼロとするカーボンニュートラル 社会の実現を宣言しました。同年12月には「グリーン成長戦略」を発表しました。
経団連も呼応します。同じ12月に「2050年カーボンニュートラル 実現に向けてー決意とアクションー」と題した宣言を公表。その後も具体的なアクションプログラムを発表し続けます。大手企業も経営計画にESGとSDGsを盛り込んだ戦略を発表します。なかには脱炭素を名目にしながら、エネルギー費用や人件費の削減など通常なら経営努力にしか過ぎない案件をESG・SDGsの項目に入れ込むケースも見かけました。
当然ながら、企業が情報発信の場とする広告やイベントではESGとSDGsの言葉が躍ります。「大企業は収益に目を奪われているだけではない。地球環境の保全に努めることで収益を還元し、地球と社会に貢献する」を伝えます。
誰も異論を唱えるわけがありません。めざす目標はいずれもとても重要です。理想論と揶揄する向きもあるかもしれませんが、今を子供、孫はもちろん私たちの未来につなげるためには避けて通れません。
ところが世界経済の急転が加速します。ロシアへの経済制裁でロシア産石油・天然ガスの供給が不安定になり、エネルギー価格は暴騰します。昨年から続いていた農産物の値上がり傾向は世界有数の穀物輸出国であるウクライナやロシアは戦況の激化に伴い拍車がかかります。
言葉だけが先走る環境経営の歴史の繰り返し
2020年時点で想定していた世界経済の枠組みが根底から揺らいでしまっています。企業は世界の混乱を理由に赤字転落に陥るわけには来ません。企業の環境戦略を批判してきた株主らの視線も変わってきましたが、2020年に掲げたESG・SDGsの看板を下げたら優良企業としての評価も下げてしまいます。せめて企業PRの場だけでも積極的に環境経営を訴えていく。
それが広告用キャッチコピーとして使われる一方、普段の経営では見かけなくなってしまった背景です。多くの人は納得するでしょう。でも、この繰り返しは1980年代から何度も目撃しています。結局、数十年も環境経営という言葉だけが先走りしながら、実体は足踏みを続ける企業の姿を目撃し続けてきました。2022年も同じことが再現されるのでしょうか。
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