経済産業省が9月13日、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表しました。日本の企業に対し人権尊重の視点から経営を実践するよう求め、その指針となるものです。日本の企業は世界各地で事業展開していますが、人権問題についての感度や実行力が欧米に比べて差があります。英語などの情報発信力の違いを忘れるわけにはいきませんが、これまで以上に積極的に取り組む必要がある視点です。今後の経営戦略にいかに組み込み、実行できるかを注目したいです。
我が国は、特にアジ ア諸国と共にサプライチェーンを整備し、各国と強い経済的結びつきを有する国家とし て、現地の状況を考慮しつつ、企業による人権尊重の取組の普及・促進に向けてリー ダーシップを発揮していくことが期待されている。同時に、日本で事業活動を行う企業は、国連指導原則の下、日本国内のみならず世界 各地における自社・グループ会社及びサプライチェーン等における人権に対する負の影 響に注意を払わなければならない。
◆経済産業省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」
https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003-a.pdf
経産省が人権尊重のガイドラインを公表した狙いを説明する一文です。
ユニクロはウイグル産綿の使用で窮地に
人権問題がビジネスにどう影響するのか。
1年前の2021年、アパレルメーカーなどで中国の新疆ウイグル自治区で産出した綿を使用しない動きが広がりました。ナイキやH&Mなど世界で製品を販売する企業はウイグルでの人権侵害を懸念し、中国政府を批判しました。窮地に追い込まれたのはユニクロでした。4月、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は海外メディアからウイグルの人権侵害について問われ、「政治的な質問にはノーコメント」「人権問題というより政治的問題だ」「我々は政治的に中立だ」とコメントしました。ユニクロにとって中国は大市場です。中国政府を批判したナイキやH&Mなどは国内で不買運動にあっています。柳井さんとしても慎重に言葉を選ぶのは当然です。
それから3ヶ月後、フランス検察は「人道に対する罪」の隠匿(いんとく)容疑で告発を受け、捜査を開始したと明らかにしています。ユニクロのほかZARAなどを運営するスペインのインディテックス、フランスのSMCP、米国のスポーツ靴のスケッチャーズの4社が対象です。パリの人道団体「シェルパ」が亡命ウイグル人の「世界ウイグル会議」と連携して仏検察に訴え、ウイグル産の綿を下請けを通じて製品に使用し、自治区で人道に対する罪が行われていることを知りながら、労働力を利用していると主張していました。
国連は人権侵害を認定、中国政府は猛反発
1年後の2022年8月末、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は中国の新疆ウイグル自治区での「深刻な人権侵害」について報告書を発表しています。職業訓練の名目で施設に収容し、身柄拘束があった断定。テロ対策という口実でも人権侵害が絶えず、中国政府に対し拘束を受けている人々の解放などを勧告しました。中国政府は猛反発していますが、国連として人権侵害を公式に認めたわけです。
日本の服飾産業では中国製品を大量に出回っている現状に加え、どれにウイグル産の綿が使用されているかを判明するのは難しいと考え、ウイグルの人権侵害に対応するのは非現実的と主張する向きもあります。
ESG、SDGsを掲げるなら、実行するしかないのです。
企業の大小にかかわらず、ESG、SDGsを掲げて経営を再設計している時代に突入しています。人権や平等、差別はとても重要なテーマです。収益と天秤にかけて目を瞑る経営は海外のみならず国内の消費者から厳しい視線にさらされ、製品の評価や販売に大きな影響を与えます。「今ごろ」という声も聞こえそうですが、日本政府として人権尊重を経営に求める姿勢を明示しました。これから試されるのは日本企業の実行力です。
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