ESG・SDGsと企業経営

カーボンゼロを目指すJERAの不思議 新エネの旗手なのか、化石燃料の隠れ蓑なのか

 気になって仕方がない会社があります。JERA(ジェラ)です。至る所で「JERA』を目にします。

 まずテレビの広告頻度に驚きます。再生可能エネルギーやアンモニアなど駆使した最新のエネルギー技術を前面に出して「絶対」を繰り返しながら「発電の常識を変えてみせる」と強調します。「燃やしてもCO2が出ない火を作る」「この星がいつまでも美しあるために」などのフレーズが続くテレビ広告を眺めていると、「カーボンニュートラルの時代が到来するのだから、当然の取り組み」とばかりに誰も異論を挟む余地がありません。広告素材や編集を見ていると、制作費をかなり注ぎ込んでおり、制作陣はかなり巧みで優秀な人材を集めています。

広告がテレビ、映画と至る所に

 若者がスマホでコンテンツを視聴し、テレビ広告の訴求力が問題視されている時代です。こんなに広告費を投じる会社があるんだと感心していたら、ゴジラの映画を上映するTOHOへ行ったら、そこにも「JERA」が登場しました。テレビ広告に驚いていたら、映画の劇場まで追いかけられた気分です。JERAのホームページを見ると、指定した動画を見ると日曜日の映画の割引クーポン300円分を応募者全員にプレゼントするとあります。突然、目の前に現れる。なんかゴジラに似た恐ろしさを覚えます。

JERAがスポンサーに

 スポーツのスポンサーとしても存在感が増しています。プロ野球をテレビで見ていると、選手と審判の後ろのボードに「JERA」と描かれていました。セ・リーグのクライマックシリーズは「2023 JERA クライマックスシリーズ セ」の名称で開催されました。

巧みなメディア戦略に感服

 メディア戦略が巧妙です。幅広い層に訴求できるテレビ、映画、スポーツを使い、簡潔に自らの企業イメージを植え付ける一方、自社のホームページではかなり詳しく、最新のエネルギー技術を説明します。どちらもJERAは「CO2が出ない火をつくる」と強く印象付け、カーボンニュートラル時代に相応しいエネルギー会社の誕生を宣伝しています。

News Picksとコンテンツも

 経済情報のデジタルメディアとして高い人気が集める「News Picks」ともコンテンツを制作しています。福島第一原発事故以降、電力会社に対する信用は地に堕ちています。若い層を中心に利用が多いNews Picksと一緒にこれから取り組むエネルギー戦略をわかりやすく説明し、訴求する狙いのようです。そのコンテンツをNews Picksのブランドを冠したまま、JERAのホームページに掲載しているのも驚きです。

 テレビ、映画、デジタルとメディアを巧みに組み合わせて訴求する層に合わせてコンテンツを仕上げる。しかも、JERAの洗練されたホームページの品質は日本企業のどこよりも上回るのではないでしょうか。コンテンツの内容はもちろん、動画、イラストなどふんだんに使い、見出しも磨きがかかっており、おしゃれ。躍動感が溢れた画面構成と展開は、東電や中部電などの企業イメージから大きくかけ離れています。電力会社で育った人材では不可能なメディア戦略です。かなり優秀な広告スタッフが控えているのは確実です。

東電と中部電が「新しい時代」を目指す

 JERAは2015年、東京電力と中部電力が折半出資で設立したエネルギー会社です。東電と中部電の火力関連の事業を統合し、設備を集約しています。日本の火力発電量の過半を占め、世界からの燃料の調達、電力の販売などで頭抜けた存在です。日本が率先して開発したLNG(液化天然ガス)の取り扱い量はもちろん、世界最大級。

 誕生した背景には2011年3月の東電福島第一原子力発電所事故があります。日本の電力会社の原発は全て停止し、東電は事故の賠償などで事実上国策会社に。一方で、CO2排出を抑制し、近い将来はゼロを目指す「カーボンニュートラル」あるいは「カーボンゼロ」の実現を電力会社は迫られていました。原発の再稼働や新増設が見通せない中で、従来の9電力体制のままでは苦境を脱せない。国も含めて新しい会社の設立で突破口を見出しそうとしたのでしょう。

 JERAの社名には「日本の新しいエネルギーの時代をつくる」という思いを込めているそうです。企業のミッションは「再生可能エネルギーと低炭素火力を組み合わせたクリーンエネルギー供給基盤を提供することにより、アジアを中心とした世界の健全な成長と発展に貢献する」。

ゼロエミッションを理想に掲げ、現実は火力発電

 その強い思いが巧みで頻度が多いメディア戦略に現れているのでしょう。しかし、冷静に眺めれば、カーボンニュートラルと謳いながらも火力発電の継続を続け、アンモニアなどCO2を排出しないエネルギーを利用すると言いながらもアンモニアの生産に化石燃料を費やしているのが現状です。CO2の排出力をゼロに向けて努力しているのは事実ですが、まだ手が届く範囲に及んでいないのが実態です。

 「CO2が出ない火をつくる」と大々的に訴えながらも、現実は違うのではないか。事情を少し知れば、誰でも素朴な疑問を抱きます。すでに環境団体が視聴者に誤解を与えるとして日本広告審査機構(JARO)に申し立てています。

 ゼロエミッションという高い理想を掲げながら、邁進するJERAが応援したい。ただ、現実が理想とかけ離れたままでは、化石燃料を使って火力発電所を使い続ける電力会社に対する批判をかわす思惑があると疑われても仕方がありません。

 新しいエネルギーの旗手として期待しているだけに、電力会社の現実をうやむやにする「隠れ蓑」と批判されないよう説明する努力が必要です。「策士、策に溺れる」との言葉があります。巧みなメディア戦略に溺れないようお願いします。

 

◆ 記事中の写真はJERAのHPから引用しました。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


最近の記事
Eco*Ten
  1. COP29 気候変動対策が資金争奪戦にすり替わる 討議は「コップの中の嵐」に

  2. 日本でも内部告発で企業、組織が変革する動きは加速するか 消費者庁が刑事罰を検討

  3. 100億匹のズワイガニが死滅 被害額は20兆円? 地球温暖化の衝撃は止まらない

  4. 衆院選挙、異常な猛暑や豪雨は票にならない!?気候変動対策が公約に盛り込まれない不思議

  5. 神宮外苑の再開発、多くの声を聞き「公共の空間」を問い、街を創る時

  6. イスラエルの博物館、展示品が壊されても保護せずに展示「個人を信頼し、尊重する」を貫く

  7. 個人情報の漏洩250万件 信用を捨てた損保にESGは手に負えない持続不可能な経営だった   

  8. 一条工務店、タマホームなどを悪質例と公表「下請けいじめ」は消費者の購買動機に影響を与えるか

  9. 小林製薬とビッグモーター 不正の図式が同じに見える

  10. 地球温暖化はワイン産地を北へ、北へ 北海道のピノがうまい

  1. 日揮 スシローなどとSAF生産、ESG・SDGsが背中を押した驚きの提携

  2. ダボス会議 悲喜劇の舞台に形骸化、そろそろ賞味期限切れが迫っている

  3. JFE 高炉から電炉へ 脱炭素の覚悟 過去の栄光と葛藤の末に Eco*Ten 6・5点

  4. 気候変動ランキング① CCPI 日本は59ケ国+EUのうち50位 政策の具体性と実現に低い評価

  5. 政府、原発推進へ大転換 及び腰から本腰へ 本気度をEco*Ten 10点満点の3・5点

  6. キーエンス Eco*Ten は10点満点の6・5点 環境は身の丈に合わせて努力

  7. Eco*ユニコーン創生 株式上場益の2倍相当を無利子で10年融資、脱炭素のブレイクスルーへ

  8. 経産省が国交省を行政指導する日は近い?! 企業の人権侵害の手引き公表

  9. ESGと経営戦略①マクセル が全固体電池の先駆に エネルギーのスマホ化を加速

  10. ディスコ Eco*Ten 10満点の8・0点 SDGsの総花的な贅肉を削ぎ、強い分野をより研磨する

月別のアーカイブはこちら

カテゴリー

明治神宮外苑から信濃町へ

TOP