きっと多くの人が「明治神宮外苑の場合はどうなるのだろう」と心によぎったのではないでしょうか。東京都国立市で完成目前のマンションが富士山を眺望する景観を阻害する恐れがあるとして、解体が決まった衝撃なニュースを聞いた時です。完成寸前の建物が解体するなんて、設計ミスでない限り前代未聞の出来事です。建設・不動産業界の考え方が大きく変わり始めたのでしょうか。それなら、明治神宮外苑の再開発も軌道修正されてもおかしくない。ちょうど東京都知事選が始まります。東京の景観をどう守り、創造するのか。議論する価値は十分にあります。
前代未聞の解体決定
解体が決まったのは、積水ハウスが建設した「グランドメゾン国立富士見通り」(10階建て、総戸数18戸)。7月から購入者に引き渡す予定でしたが、積水ハウスは6月4日に国立市へ事業廃止を提出しました。
マンション建設は2021年に計画を公表され、当初から論議を呼んでいました。場所はJR国立駅から歩いて10分ほどの好立地ですが、「富士見通り」の地名からわかる通り、富士山がよく見えるため、地元住民から景観への悪影響が心配されていました。積水ハウスは国立市の審議会で富士山の眺望は確保されると説明し、設計変更で改善に努めました。
しかし、突然、解体へ急転しました。解体決定後に公表した文書で「2回にわたる設計変更を行ったが、完成が近づき、富士山の眺望に与える影響を再認識した。現況は景観に著しい影響があると言わざるを得ず、眺望を優先する判断に至った」と説明しています。「法令上の不備はないが、遠景からの富士山の眺望に関する検討が不足していた」と契約者や住民らに謝罪しました。かなり異例の説明です。
景観法施行後もトラブルは続く
マンションなどの建設で景観が遮られる問題は長年、続いています。2005年には「景観法」が施行され、自治体が独自の景観計画を作って、建物の高さや外観などに規制を加えられるようになりましたが、トラブルは絶えません。
景観法の第1条は、こう明記されています。
この法律は、日本の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため、景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境創造及び個性的で活力ある地域社会実現を図り、もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的とする」
景観法では、各市町村を景観行政団体と定め、都道府県、指定都市、または都道府県知事と協議して景観行政を実施するとしています。景観計画の区域内の建築等に関しては届出・勧告によって規制できるほか、必要な場合は建築物等の形態、色彩、意匠などに関して変更を命令することができます。景観計画については住民による提案も認めています。
景観法の対象地域は都市計画で設定します。条例を制定すれば、その他の地域でも準景観地区を設定するできるそうです。結構、自由度が高い。もちろん、景観地区内の建築物のデザインは、景観計画に枠内に従うものです。
解体を決めた国立市は、法律的な問題はありませんが、景観を再点検して決断しました。それならと多くの人が思い浮かぶはずです。東京の明治神宮外苑前。この地区は日本で初めて風致地区に選ばれています。景観の重要性に疑問の余地はありません。
都知事選で問い直すチャンス
再開発事業は三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事などが主体ですが、明治神宮外苑には野球場、ラグビー場、国立競技場などスポーツ関連の施設が集中しており、東京五輪やラグビーW杯を推進した森喜朗元首相、さらに政治活動を通じて近い関係の小池百合子都知事が後ろに控えています。景観法を考えれば、すでに開始した事業に歯止めはかかりません。
国立市のマンションは、住民のみならず市長などから設計変更の要望がありましたが、明治神宮外苑の場合は住民らの見直し要求はありましたが、東京都知事は推進のまま。6月20日から東京都知事選が始まります。明治神宮外苑の再開発に関する都民の声を候補者に伝え、次の東京都知事に未来の東京の景観をどう守り、創るのかを考えてもらいたいです。
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