ESG・SDGsと企業経営

小林製薬とビッグモーター 不正の図式が同じに見える

 1年前の事件の再放送を見ている気分です。ビッグモーターと小林製薬が二重写しになったニュース映像が流れていました。

1年前のニュースと二重写し

 小林製薬は2024年7月23日、創業家の小林一雅会長と小林章浩社長が辞任する人事を発表しました。紅麹を原料に使ったサプリメントによる健康被害は拡大する一方で、被害に関する情報公開も著しく遅れており、一連の経営判断の責任を取ります。8月8日付けで後任の社長には創業家以外から初めてとなる山根聡専務が就任します。上場企業でありながら、会長、社長による記者会見はありませんでした。

 小林製薬は典型的な創業家による経営です。会長の一雅氏はトイレの洗浄剤として大ヒットした「ブルーレット」を開発するなど常識に捉われない新製品開発で飛躍的に成長させた功労者です。社内で反論できる人はいなかったでしょう。

創業家支配から脱皮?

 一雅氏は取締役を退いて特別顧問、章浩氏は代表権のない取締役に退きますが、これまでの実績や章浩氏が12・46%を握る大株主であるかぎり、創業家以外の社長が就任しても番頭扱いでしょう。経営の実権は変わりません。

 小林製薬が設けた事実検証委員会の報告書を見ても、小林章浩社長らの経営判断は自社に都合の良い方向に解釈し、結果的に健康被害を拡大し、情報公開の遅れを招いたことが明らかになっています。会長・社長辞任の記者会見を開催しない理由についても「報道発表文に伝えたい内容はすべて盛り込んだ」と説明するだけ。

 社会に重大な影響を与えながらも、自社の身勝手な論理を振り回す風景はちょうど1年前の7月25日にも目撃しました。、中古車販売大手のビッグモーターの兼重宏行社長が記者会見を開き、息子の兼重宏一副社長とともに辞任することを明らかにしました。後任の社長は創業家を離れ、和泉伸二専務が昇格しました。

いい加減な経営が不祥事を招く

 同社の不祥事は悪質です。報告書によると、車の修理で得る利益を1台当たり14万円に設定しており、そのノルマを達成するために作業現場は靴下に入れたゴルフボールを振り回してぶつけたり、ドライバーでひっかき傷をつけて修理費を膨らませて自動車保険を請求。架空の過大な修理費を得ていました。

 請求を受ける損害保険会社の中には不正による架空請求に気づき、保険取引をやめた会社もありましたが、損保ジャパンは見て見ぬ振り。兼重社長は会見で報告書でゴルフボールを使って修理費を架空請求した事実を初めて知り、架空請求についても「耳を疑った」「ゴルファーに失礼」という名言をいくつも披露しました。

 自動車業界からみたら、ビックモーターや損保ジャパンは失礼どころか、業界全体の信用を傷つけた事実から即退場という思いだったでしょう。

ビッグモーターは身売り、小林製薬の結末は?

 小林製薬が1年前のビックモーターと二重写しに見えるのも不思議ではありません。共通点がいくつもありません。まず創業家の社長が全権を握り、社内外からの異論に耳を傾ける姿勢がありません。その威光に逆らえるわけがありませんから、目の前に経営危機を招く問題が現れても、誰も率直に進言できない「風通しの悪い組織」になっているのです。事の重大さがどんどん膨らんできても、自分の職を賭してまで進言する人物は、もともと権力者の周囲には残っていないのです。

 それが会社を最悪の事態に追い込むのです。ビッグモーターは伊藤忠商事などに買収され、創業家から手を離れましたが、会社は看板を書き換えて存続しました。しかし、社長という重職を離れても、不正を犯した行為、経営責任を水に流すことはできません。さて小林製薬はどんな結末を迎えるのでしょうか。

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