明治神宮外苑を久しぶりに訪れました。新聞社に勤めていた記者現役時代は、すぐそばのホンダ本社を訪れるため、1週間に1度は通っていました。取材を終えたら、外苑に向かいぶらぶら散歩。取材メモを頭の中で再構成して記事執筆に必要なポイントを確認し、次の取材に備えます。いちょう並木を借景にしたレストランが空いてれば、簡単な食事かお茶を楽しむ時も。青山一丁目駅から絵画館までの並木道を行ったり来たりするだけでも楽しんです。
もう40年近い前のことです。いちょう並木の向こうに見える聖徳記念絵画館の建設から数えれば明治神宮外苑の歴史は100年ほどになりますが、風致地区に指定され一般に開放された戦後から数えれば、まだ70年ちょっと。今気づきましたが、外苑の歴史の半分以上は、一緒に過ごしているんですね。なんか、うれしいなあ。
どうりでイチョウの勢いに違いを覚えます。かつては仁王立ちしていているのかと勘違いするほどオーラを発していたイチョウがちょっと元気が感じられません。夏は緑色、秋は真っ黄色に。季節ごとに周囲の空気を染め上げる並木道が懐かしい。
せっかく久しぶりに明治神宮外苑に立ったので、並木道を通り抜け、JR信濃町まで歩くことにしました。何年ぶりだろう。コロナ禍前は周辺を仕事で何度も歩き回っていましたから、3年ぶりぐらいかな。
ホンダ本社から帝国データバンクなどが連なる国道246号線を渋谷方面に向かうと、伊藤忠商事の本社ビルがど〜んと見てきます。その陰にオラクルのビルも。伊藤忠は明治神宮外苑の再開発計画に三井不動産などと一緒に参画しています。地権者でですから、当然ですか。
ふと岡藤正広さんの顔が浮かびます。三菱商事、三井物産に続く第3位の商社だった伊藤忠を見違えるほど強くした豪腕経営者です。あの岡藤さんでさえも、この明治神宮外苑の再開発の優劣が判断できないのかなと首を傾げます。伊藤忠は本社を建て替えるそうですから、再開発もその流れにあるのでしょう。創業者の伊藤忠兵衛さんは「商売は菩薩の業」と説いたそうですが、岡藤社長も「商売は損得だけじゃない」と分かっているはずなのに・・・。残念です。
平日の夕方だったせいか、いちょう並木を歩いている人はほとんどいません。ラッキー!。久しぶりに訪れたにもかかわらず、独り占め感。素直にうれしい。並木道の木陰に入ると、30度を超える気温も涼しいと感じるのは気のせいでしょうか。ベンチで本を読んでいる男性がこちらをチラッとみてきます。国道246号線からちょっと離れただけなのにとっても静かな空間。歩く音が気になるんですね。並木道脇に密集した樹々の隙間から都営アパートが見えてきます。思ったより樹々は密集しているんだあ。
「イチョウの根元を保護するため植込地内に入らないで下さい」という案内板が歩道脇に設けられています。「そう大事にしなきゃ」と思ったけど、それどころか大量の樹々を伐採する再開発計画が動き始めています。保護→ホゴ→反故と連想ゲームのように言葉が浮かびましたが、とても笑えません。
並木道を抜けて絵画館を目の前に見ながら、信号を渡って右に曲がって通りへ。ちょっと向こうには明治記念館が見えます。周辺は道路が三叉路のように入り組んでいますが、見渡せば樹々が並ぶ公園が点在。大学の施設などもあって都心とは思えない雰囲気が漂っています。
これだけの環境が東京都心に残されている。今やるべきことは再開発ではなく、これを財産として継承することではないでしょうか。なぜ高層商業ビルなどを建てる必要があるのかわかりません。青山や渋谷に行けば、お腹がいっぱいになるほど高層ビルが建っています。もう十分じゃないかな。
明治神宮外苑からJR信濃町駅に至る道のりに再開発によって取り壊す理由が見当たりません。歩いてみれば、誰もがすぐに実感できることです。
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