三菱商事が進めていた洋上風力発電事業が頓挫しました。地球温暖化対策が叫ばれ、太陽光や風力など再生可能エネルギー事業が広がっていますが、国や地方自治体など公的な支援がなければ利益を生む採算点を超えるのは難しいのも事実です。日用品のリサイクル事業も赤字覚悟で企業がボランティア感覚で取り組んでいる姿勢を思い出せば、すぐに理解できるはずです。
500億円を超える損失処理
しかし、三菱商事の場合は違います。まず資本力は十分にあります。総合商社として世界でビジネスを展開しており、洋上風力の事業化についても熟知して、自社ならではの事業モデルを見い出して決断しました。それが突然、事実上棚上げに。世界的なインフレ、円安、ロシアによるウクラナイ侵略など予想外の経営環境になってしまったと説明しますが、計画した事業が想定通りに進むわけがないことぐらい、百戦錬磨の三菱商事が織り込み済みです。
にもかかわらず、中西勝也社長は「ゼロベースで見直す」と言います。地球温暖化対策が事業化として離陸できるか。大袈裟でなく、日本の大企業にとって試金石です。
頓挫したのは三菱商事、子会社の三菱商事洋上風力を中心とする企業連合は秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、由利本荘市、千葉県銚子市の3海域。事業費が世界的なインフレや円安などで、輸入する風車などが予想を上回るコストに上昇、採算が合わなくなったと判断したそうです。三菱商事は事業見直しに合わせて522億円も減損処理しました。中西勝也社長は「事業性の再評価を行っており、予断を許さず総合的に判断する」と答えており、撤退そのものを否定していません。
元々、赤字覚悟
秋田、千葉両県で進めていた事業は国の洋上風力発電事業の「第1ラウンド」と呼ばれる公募事業で、総額1兆円に迫る巨大プロジェクトです。三菱商事と子会社の三菱商事洋上風力、中部電力グループのシーテックなどが参加する企業連合が2021年12月、国の公募事業に応札して落札しました。現状はまだ工事を始めていませんが、2028〜30年の運転開始を見込んでいました。
当初から事業採算については疑問視する声が出ていました。落札した金額がライバル社に比べ突出していました。事業は政府の固定価格買い取り制度(FIT)を通じて売電しますが、三菱商事連合が落札した金額は能代市沖で1キロワット時あたり13・26円、由利本荘市沖で11・99円、千葉県銚子市沖で16・49円。他の応札企業を加えた平均入札価格はそれぞれ19〜20円だったそうですから、三菱商事連合が圧勝するのは当然です。
もちろん、三菱商事は利益が上がる事業モデルを考えていたと説明しています。入札案件では落札を最優先して事業採算を無視する場合もよくありますが、三菱商事の胸の内はよくわかりません。ただ、結局は500億円を超える減損処理する羽目に追い込まれたのですから、元々赤字覚悟だったのかもしれません。
もっとも大事なのは三菱商事が利益を上げるか損するのかどうかではありません。洋上風力発電事業に与える影響です。太陽光発電や陸上風力に比べて、より難しい構造物であるため、元々事業採算が高めと見られています。しかも、日本の国土は山地が多いこともあっては太陽光発電や陸上風力に適した用地が少なく、日本として再生可能エネルギーを今後も拡大するには洋上風力発電を事業化し、成功する必要がありました。
企業の環境事業の信用が揺らぐ
洋上風力発電は三菱商事だけが手掛けている事業ではありませんから、500億円を超える損失を計上したからといって一喜一憂することもないのは承知しています。ただ、日本を代表する企業である三菱商事がHPで日本のカーボンニュートラルに貢献すると高らかに宣言しているわりに、お粗末にも腰砕けしてしまうことは大企業の環境関連事業に対する信用を大きく傷つけます。「綺麗事を言っても、結局は利益優先。環境、エコと言っても外見を繕うお化粧のようなもの」と理解されるでしょう。とても残念です。
◆ 写真は三菱洋上風力のHPから引用しました。
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