正直、驚きの提携です。プラントの日揮ホールディングスが回転すし店「スシロー」などを経営するフード&ライフカンパニーズなどと組んで、環境負荷が低いSAFの生産に取り組みます。日揮は石油や石油ガスを精製するプラントを設計・製造する世界的なプラントメーカー。ビジネスの相手はサウジアラビアなど世界のエネルギーを支配する産油国や石油会社ばかり。今回は回転すしチェーンと提携です。
日揮はスシローの廃油を使い、SAF生産
日揮、フード&ライフカンパニーズ、バイオディーゼル燃料製造のレボインターナショナル(京都市伏見区)など4社が4月初め、使用済み食用油を原料にしたSAFの生産に合意したと発表しました。事業の仕組みはこうです。スシローなどから排出される食品の廃油をレボインターナショナルが回収。日揮はその廃油を原料に新設する工場でSAFに仕上げます。日揮HDは約200億円を投じ、堺市に工場を建設し、2024年にも操業します。 スシローなどのチェーン店から年間90万リットルの廃油が発生するそうです。
SAFは航空会社も採用を急ぐ
SAFは食材などを由来にした原料を利用して航空燃料を製造します。植物由来となるので、CO2の排出と消費は差し引きゼロ。化石燃料と比べて80%程度も削減できるといわれています。ジェット燃料を大量に消費する航空機は、発電所などと並んで地球温暖化を促す温室効果ガスを発生する源と批判されています。日本政府はカーボンニュートラルを実現する政策の中でSAF量産を掲げており、航空会社も使用量の拡大を急いでいます。
20年前なら想像もしない提携がなぜ
日揮とスシロー。この意外な組み合わせがなぜ生まれたのか。どう考えてもキーワードはESG・SDGsしか考えられません。日揮の主力事業であるプラントはCO2など温暖化ガスの大量排出が避けられません。CO2排出を抑制するプラントや新事業に取り組んでいますが、日揮が属するプラントは化石燃料を主原料にするわけですから、企業イメージは鉄鋼、電力、石油など地球温暖化を招く企業イメージと同列に並びます。
日揮は中期経営戦略でも気候変動対策について詳しく説明しています。しかし、経営戦略を熟読するのは同業者、取引業、会社分析するアナリストかジャーナリストくらい。ESGやSDGsの実践が叫ばれ、企業行動に厳しく見つめる多くの消費者らには届きません。日揮の取り組みを具体的に、かつ幅広い層に訴えるのにはどうすれば良いのか。
日揮もスシローも環境を訴えるのが目的
今や国民食の一つとなった回転すし店と組むのは、とても素晴らしい着眼点です。外食チェーンは食材や商品の廃棄問題に直面しており、調理で使う食用油の廃棄は代表例のひとつです。しかも、回転すしも売れ残ったすしの処理に悩み、回転レールにすし皿を載せず、オーダーを受けてから握るシステムに切り替えるチェーンも現れています。
日揮と「スシロー」にとって、使い古された表現ですがまさにウイン・ウイン。石油やエネルギー関係以外ではあまり知られない日揮ですが、スシローを通じて航空燃料に向けて実用化が進んでいるSAFを生産すれば、日揮の地球環境問題に対する取り組みを知ってもらえます。一方、スシローは、毎日大量に発生する廃油処理を回収し、世界的なプラント会社の日揮と一緒になってSAFを生産すれば、その本気度を広く訴えることができます。
20年前なら日揮がスシローと手を組む風景を想像できたでしょうか。まさに両社の背中をESG・SDGs押した提携といえるでしょう。
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