成田空港に植物や廃油などを原料とする「SAF」を供給できる設備が完成しました。航空会社はCO2を大量に排出する産業として批判されており、スウェーデンの環境家グレタ・トゥーンベリさんが航空機を使わずにヨットで大西洋を渡って国際会議に参加し、世界に訴えたこともあります。SAFはジョット燃料の代わりに使われ、CO2の排出量を80%も削減します。SAF実現の立役者はユーグレナです。創業者の出雲充社長がブレずに事業化に進む経営姿勢がとても好きです。
出雲社長のブレない経営姿勢と人柄
出雲充社長がユーグレナを創業し、自らの夢を実現するまでの道はまるで将棋の棋譜を見る思いです。自分の目標に向けて一手を積み重ね、王手をかける。度胸と幸運に支えられてスタートアップする最近の経営者と明確に一線を画します。1998年、東大文系学生の時にバングラデッシュのグラミン銀行にインターンとして参加。深刻な食問題を目にして東大農学部へ転部して栄養素の研究に取り組み、ミドリムシに取り憑かれます。2002年に東大卒業後、銀行に就職しますが、諦めきれずに翌年退職。当時の堀江貴文社長から資金を得て2005年ユーグレナを設立しました。
夢を語る社長は経営を着実に進める
ミドリムシから燃料を創生する。世界で初めて大量培養に成功した後も「夢を語る社長」として注目を浴びながら、事業基盤を着々進めます。2012年には東証マザーズに上場します。その頃、ケーブル網とネットで経済ニュース番組を放送するテレビ会社に勤めていたので、新興企業の中でもユニークな社長として出雲さんにはたびたび番組やイベントに登場していただきました。気軽で率直な語り口調でミドリムシの可能性にかける出雲社長は、情報通信などに偏るスタートアップ企業の中ではかなり異色で、視聴者から高い人気を集めました。
秘密はその人柄にあると考えます。ミドリムシから世界の食料問題を解決するだけでなく、バイオの実用化で脱炭素を加速、地球温暖化にも貢献する。食料不足や温暖化ガスの打開で四苦八苦している現状を考えたら、まるで大風呂敷を広げたようなベンチャー企業です。しかも、語る時はいつも笑顔。まじめな表情で経営計画を語らないと信用されないと信じる日本の企業経営者の常識から外れています。
しかし、着実に前進します。通販などで健康食や化粧品の売り上げを増やして事業基盤を固め、バイオ燃料に向けて経験と技術を持つ企業と提携を進めます。SAFは一例に過ぎませんが、その潜在需要は膨大です。原料に使用済みの食用油と微細藻類ユーグレナから抽出されたユーグレナ油脂などを使い、製造します。日本政府は2030年までに国内の航空会社の使用する航空燃料のうち10%を、SAFに置き換える目標です。ヨーロッパはもっと先を進んでいます。2022年2月の「トゥールーズ宣言」では航空会社、宇宙企業などが2050年までにCO2排出量ゼロを達成することを約束しました。SAFはまだ小さな一歩を踏み出したに過ぎません。
経営もユニーク、18歳以下に未来を託す
経営もユニークです。2019年8月から会社の未来を担うCFOを18歳以下の若者から募集し、提言をまとめてもらいます。現状に甘えず、絶えず新しい目標を探し、継続する。シリコンバレーで聞いた成功物語を垣間見ているようです。
日本経済は疲弊しています。24年ぶりの1ドル140円台に追い込まれているのは日米の金利格差の拡大が主因ではありません。未来が見えない日本が売られているのです。ユーグレナは世界的な食料不足、エネルギー資源の高騰、脱炭素の主要課題に一つの答えを示しています。日本の技術と資金、そして人材が主な資産です。日本にはまだ世界に躍り出るだけの潜在力が十分にある証拠です。
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